島根県飯南町の赤穴(あかな)八幡宮で、ご神体として千年にわたってまつられてきた玉依姫(たまよりひめ)立像が17日、初めて地元住民らに公開された。虫食いなどによる傷みが激しく、保存処置や調査研究のために寄託されることになった島根県立古代出雲歴史博物館への搬送作業に伴うわずか1時間半のお披露目となった。
玉依姫立像は、高さ117センチ。宮司の倉橋英(あきら)さん(77)によると、制作経緯などの伝承は存在せず、由来も不明だが、平安後期に八幡宮となる前の松尾神社の創建神話には、玉依姫や息子の別雷神(わけいかづちのかみ)、父の健角見神(たけづぬみのかみ)(八咫烏(やたがらす))が登場し、八幡宮はこの3柱を主祭神としているという。玉依姫は、伝説上の人物で初代天皇とされる神武天皇の母でもある。
同館の浜田恒志・専門学芸員によると、像はヒノキの一木造りで平安後期の11~12世紀の制作とみられる。神像は座った像がほとんどで、立像は全国的にもめずらしいという。体は衣のしわなどを彫刻せず簡素な表現をしているのに対し、顔は唇やほおが立体的で、二重まぶたや鼻の穴を彫るなど入念に造られている。
ご神体は搬出前に入れ替えられており、倉橋さんは住民らを前に「十数体のご神体があったが多くが虫食いで崩れ、悲しんでいた。氏子の皆さんの宝、玉依姫立像だけでも残したかった。寄託できてありがたい」。浜田さんは「造形の特徴や美術史的、地域史的位置づけなどを調べ、機会があれば博物館で展示したい」と話した。