Smiley face
写真・図版
店の前に立つ池田優香さん(左)と武士さん=2024年8月5日午後2時8分、千葉県茂原市粟生野、中野渉撮影
  • 写真・図版
  • 写真・図版
  • 写真・図版

 千葉県茂原市粟生野の田園風景の中に南仏プロバンス風の一軒家がある。東京都港区から移り住んだシェフの池田武士さん(56)と優香さん(50)夫婦のフレンチレストラン「ルールブルー イケダヤ」。外房に土地勘はなかったが、「人との巡り合いがあった。自然が豊かで食材の宝庫。この土地に導かれた」と話す。

 武士さんはさいたま市出身で、高校卒業後に料理の世界に入った。都内や名古屋市のレストランで経験を重ね、1997~99年には南仏で修業をした。同じころ、優香さんも南仏でフランス語を学んでいた。

 「庭に果実があふれ、家族で一緒にチーズを買いにマルシェに行く。ゆったりとした時間が流れて素敵だと思った」と優香さん。将来は独立し、プロバンス風の建物でレストランを開くことが2人の夢になった。

 最初は神奈川県鎌倉市で開店を計画した。南仏プロバンス風の建物を再現できる施工会社が見つからず、ようやく経験が豊富な建設関連の男性と知り合った。男性は「茂原に理想の場所がある」と自身の会社が所有する土地を勧めてくれた。

 2011年に茂原に引っ越し、準備を始めた。フランスを訪れて建築資材を買い、扉や椅子など店の装飾や建具用のブロカント(古道具)も手に入れた。建物の壁を厚くし、窓を内側に設置するなどこだわった。

 オープンは13年。鎌倉で予定していたより広い敷地に大きな建物を構えられた。市街地ではないため、通りすがりの客は来ない。広告も打たず、最初は閑古鳥だった。口コミなどで地元の客が少しずつ増えた。都会との2拠点生活の客も多い。

 武士さんは「朝採りの野菜が豊富で海産物も新鮮。食材の種類が多いのは、ここに来て初めて知った」。農家や漁師、好みのパン屋ともつながった。店は完全予約制で、地元食材が中心のコース料理を提供する。その日に仕入れた旬の食材で、何を作るか考える。

 武士さんは「店の前のガーデンを整備して将来はパーティーができるようにしたい」。優香さんはブロカントを販売したり、プロバンスの庭造りを紹介したりしようと考えている。「フランスの生活スタイルを知ってもらうために、もっと人を巻き込みたい」と話す。(中野渉)

共有