バンカ島にある食堂で出されるエビ。鮮度が違う=2025年5月15日、パンカルピナン、河野光汰撮影

 米国のトランプ政権が打ち出した「相互関税」の影響は、米本土から遠く離れた東南アジアの離島にまで及ぶ。32%の関税率が設定されたインドネシアでは、政府が米国製品の購入拡大などをカードに交渉を続けるが、方針が揺れ動くなか先行きは見通せず、関係者は疲弊している。

【連載】閉じゆく世界 トランプ関税の現場から

トランプ米政権が一方的に高率の関税を課す「トランプ関税」が、世界を揺さぶっています。戦後の自由貿易体制のもとでモノをつくり、取引してきた現場ではいま、何が起きているのか。各地の特派員が報告します。

 スズの採掘地として知られてきたインドネシア西部の離島・バンカ島では塩水と淡水が混じり合う場所で、近年、エビの養殖が盛んだ。州都・パンカルピナンの食堂は新鮮なエビ料理を求める地元民でごった返していた。

 中心部から車で約2時間半。海にほど近い広大な土地にいくつもの人工池が並んでいた。水中にかごを入れて引き上げると、人さし指ほどの大きさのエビがぴちぴちと跳ねる。

 「このエビは(出荷まで)まだかかる」。そう説明するのは、エビ養殖業に携わるホイ氏(24)だ。2021年に親族経営の会社で事業を始めた。東京ディズニーランド1個分に相当する敷地に計43の人工池が稼働しており、昨年は800トンほどのエビを養殖したという。「この島ではトップクラスだろう」とホイ氏は胸を張る。

 エビは少しの環境の変化で病気が広がることもあり、養殖業は気が休まらない仕事だ。

 取材中、ホイ氏は次々にビールの缶を開けては飲み干した。「この仕事は簡単ではない。アルコールなしでは眠れない日もある」と言う。

 そんなホイ氏に加わった新た…

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