内閣府の有識者検討会が3月末に公表した南海トラフ巨大地震の新たな被害想定では、九州・山口で最悪の場合、死者が約6万人に達すると想定された。過去の想定より増えた県があるほか、地域の高齢化による避難の在り方も問われるようになった。
最大震度7が想定される宮崎県では死者は3万9千人とされ、前回2012年より3千人減った。
県では22年までに、沿岸7市町で津波避難用のタワーや高台など計26カ所を整備した。県の担当者は「対策が進み、死者の減少に表れた」と受け止める。高鍋町で県内6カ所目となる支援物資の拠点施設が完成し、今年1月に使用が始まった。
一方、宮崎では津波による死者が全体の95%を占める3万7千人。大きな課題として、少子高齢化や避難意識の低さが浮かぶ。
17年、日南市の大堂津地区に高さ9.3メートルの津波避難タワーが建てられた。同市は、高さ1メートルの津波の最短到達時間が15分で県内で最も早い。住民は地震後、いち早くタワーの屋上に逃げる必要に迫られる。屋上には非常食や簡易トイレが入ったベンチをはじめ、スマホの充電に使える太陽光パネルもある。
ただ、屋上へは階段を上る必要がある。住民の河野憲二さん(74)は「車いすの人はどうすればいいのか。この数年で高齢化が進み、手助けしてくれる若者が減った。完成時には考えなかった課題だ」と頭を悩ませる。スロープの設置を望む声は出ているが、実現は見通せていない。
同市では昨年8月に発生した日向灘を震源とする地震で震度6弱を記録した。竹井信二さん(66)は、住民の間で津波を警戒する意識の高まりは感じつつ、「まだばらつきがある。これまで何もなかったから大丈夫だという人もいる」と不安をにじませた。
内閣府の検討会の想定では、地震後に早く避難できれば津波による死者は大きく減るとされるが、それでも宮崎では6千~1万人が見込まれる。
宮崎市の茜ケ久保真由美さん(77)は自治会長を務める島山地区で04年に自主防災組織を立ち上げ、避難訓練などを続けてきた。15年には、行政に求めてきた津波避難施設の完成にこぎ着けた。
だが、昨夏の地震後に避難し…