2025年8月15日、米アラスカ州アンカレジのエルメンドルフ・リチャードソン統合基地で握手するトランプ大統領(右)とロシアのプーチン大統領=ロイター

 トランプ米大統領は8月1日、米国のウクライナ停戦圧力に対するロシア前大統領の「極めて挑発的な発言」を受け、原子力潜水艦2隻の「適切な地域」への配備を命じたと、明らかにしました。ロシアも「核による恫喝(どうかつ)」を続けています。15日にはウクライナ侵攻後初の米ロ首脳会談が開かれましたが、核を取り巻く情勢はどうなるのでしょうか。核問題に詳しい東京外国語大学総合国際学研究院の吉崎知典特任教授は、「ウクライナ侵攻の長期化もあり、核を巡る動きが活発になっている」と語ります。

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自ら緊張を高めるトランプ大統領

 ――トランプ氏の発言をどうみますか。

 本来、原潜の数や配備する場所に言及することはあり得ません。潜水艦はどこにいるのかわからない隠密性が最大の武器であり、搭載しているミサイルの射程も長いため、ロシアに接近させる意味がないからです。また、「核の脅し」は、地球を何度も破壊できる能力を持つ、ロシアのような核大国には効果がありません。トランプ氏は自ら緊張を高めています。

 おそらく、ロシアに近いバルト海か黒海に原潜を派遣する可能性を示唆することで、プーチン大統領に無言の停戦圧力をかけたのでしょう。過去の戦争をみても、太平洋戦争が3年8カ月続いたように、戦争が3年目、4年目に突入すると、早く戦争を終わらせたいという思いが強くなると同時に、最後の攻勢をかけて有利に終わらせたいという矛盾した傾向が出てきます。トランプ氏には「プーチン氏とのディールはまだ不十分」という不満があるのでしょう。

 ――15日の米ロ首脳会談をどうみましたか。

 トランプ氏が尊敬するレーガン米大統領は1986年、ゴルバチョフソ連共産党書記長とのレイキャビクでの首脳会談で、中距離核戦力(INF)全廃という歴史的合意にたどり着きました。この合意を踏まえて東西冷戦は終結しました。「平和の構築者」を自負するトランプ氏は、アラスカでの会談に期待を寄せ、ノーベル平和賞を強く意識したとみられます。

 プーチン氏も会談後に「自分が大統領だったら戦争はなかっただろうとトランプ氏は語っているが、これに同意する」と語り、トランプ氏を持ち上げました。プーチン氏は「米国はロシアの国益を認めてくれた」とくぎを刺すことも忘れておらず、自ら決定したウクライナへの「特別軍事作戦」を続けています。

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