核兵器は人間を生涯にわたり虐待する――。広島原爆の放射線が人体に及ぼす影響を研究して半世紀以上、88歳の血液内科医師・鎌田七男さんはそんな言葉で警鐘を鳴らす。きのこ雲の下にいた人の体内でひとつ、またひとつと「多重がん」の発症を診てきたからだ。80年がたち、被爆者の心身はどんな状態にあるのか。その実相を聞いた。
日本軍の先制攻撃に始まる太平洋戦争末期の1945年8月、米軍が広島・長崎に相次ぎ投下した原子爆弾。それは爆風、熱線、放射線による甚大な被害をもたらした。多くの人が抱くイメージは破壊力のすさまじさであり、やけどを負った被爆者の悲惨な姿だろう。
しかし、原子野を生き抜いた人々にとって最も過酷で深刻なのは放射線被曝(ひばく)だった。鎌田さんは言う。「機関銃で次々と撃たれるように、被爆者は見えない放射線に全身あちこちを射抜かれ、体中の細胞がどことも知れず傷つけられたのです」
細胞の核をなす染色体が異常…