原爆ドームが特別史跡へ　被爆80年の節目、20世紀の遺構として初

　人類史上初めて投下された原子爆弾の惨禍を伝える広島市の世界遺産「原爆ドーム」が、特別史跡になる見通しとなった。被爆から80年の節目に、20世紀の遺構として初めて指定される。文化審議会は20日、ほかに史跡6件、天然記念物1件を指定するよう、文部科学相に答申した。

　「原爆ドーム（旧広島県産業奨励館）」は、1915年に完成した楕円（だえん）形のドーム形屋根が特徴の洋館。爆心地から160メートルに位置し、内部は全焼したが、奇跡的に倒壊は免れた。被爆から50年たった95年に史跡に指定され、翌96年に世界遺産に登録された。

　今回の指定の契機は、市が1967～2020年に計5回実施した保存整備の総括報告書が、今年発行されたこと。近年、原爆遺跡の研究が進み、長崎の5カ所、広島の6カ所もそれぞれ史跡になる中、原爆ドームが被爆当時の形をよく保つなど「被爆遺構の中でも象徴的な存在」であることがより明確になったため、史跡から「格上げ」される。

　史跡になる見通しの坂本城跡（大津市）は、織田信長の家臣・明智光秀の居城で、琵琶湖岸に築かれた。地上に痕跡がなく「幻の城」と呼ばれたが、昨年、宅地予定地の発掘調査で大規模な石垣と堀の遺構を確認。開発は中止され、保存が決まった。

　天然記念物の答申を受けたマチカネワニ化石（大阪府豊中市）は、50万～40万年前に生息したワニ類の絶滅種の全身骨格標本。64年に建設中の大阪大学豊中キャンパスで発見された。東アジアを代表する巨大爬虫（はちゅう）類で、ワニ類の進化を解明する上で重要という。

　同審議会は6件を登録記念物にすることも答申した。ほかの史跡と登録記念物は次の通り。

　【史跡】大聖寺（だいしょうじ）城跡（石川県加賀市）▽香坂山遺跡（長野県佐久市）▽韮山（にらやま）城跡附（つけたり）付城跡（静岡県伊豆の国市）▽多良木（たらぎ）相良（さがら）氏遺跡（熊本県多良木町）▽崇元寺（そうげんじ）跡（那覇市）

　【登録記念物】平木氏庭園（金沢市）▽山田氏庭園（同）▽浮月楼（ふげつろう）庭園（静岡市）▽旧八木商店本店庭園（愛媛県今治市）▽旧豊山閣（ほうざんかく）庭園（旧旅館田川、北九州市）▽東南植物楽園（沖縄県沖縄市）

特別史跡

　古墳や城跡などの遺跡で、国が重要と認めた「史跡」の中から特に学術上価値が高く、日本の文化を象徴するものが指定される。重要文化財の中から選ばれる国宝に相当する。「遺跡の国宝」という位置づけだ。国宝が建造物・美術工芸品あわせて1148件なのに対し、特別史跡は65件（いずれも指定見込みを含む）。主な例は、五稜郭跡（北海道）や高松塚古墳（奈良県）、姫路城跡（兵庫県）、吉野ケ里遺跡（佐賀県）など。