生徒たちに語りかける原尚志=2024年2月19日、福島県郡山市の県立安積高校、斎藤徹撮影

 2月半ばの放課後、福島県立安積高校(郡山市)の物理実験室。5人の生徒たちが県外の高校生に披露するプレゼンテーションの事前練習をしていた。理科教諭の原尚志(たか・し)(65)は、その様子を見つめていた。

 タイトルは「除去土壌再生利用と福島復興」。東京電力福島第一原発事故で発生した放射性物質を含む除染土の最終処分に向けた課題をまとめた内容だ。

 「説明が長すぎると理解されにくいかもしれないよ。それから、話す時はもっとゆっくりと」。科学的に誤っている部分がないかや説明が正しく伝わるかなど、助言は必要最小限にとどめ、問いの立て方や結論は生徒の意見を尊重する。自分で主体的に考えることが「知識を自分の血肉にする一番の近道」と考えるからだ。

 生徒たちが出した結論は、原発事故がもたらした様々な問題が、福島以外では「ひとごと」として見られている実情に疑問を呈するものだった。

 原は2015年から、県内の高校生と県外・海外の高校生が交流し福島の現状や課題について実地研修し意見交換する「国際高校生放射線防護ワークショップ(WS)」を主宰する。

 23年度の受講生も、昨春から第一原発や浜通りを訪れ、放射線の専門家や廃炉に取り組む東電社員の話を聞き、知見を深めてきた。活動を通して生徒たちに学び取ってほしいのは「科学的視点で物事を捉えることの大切さ」だ。

13年前、パニックに陥った市民

 13年前は、福島市の県立福島高校で物理を教えていた。原発が爆発し、空気中に飛散した放射性物質が風に乗り、約60キロ離れた福島市にも飛来した。目に見えない放射性物質をめぐり、虚実ない交ぜの情報が錯綜(さく・そう)し、市民はパニックに陥った。

 被曝(ひ・ばく)したら人体にどんな影響が出るのか。福島に住んでいて大丈夫か。将来子どもを産んでもいいのか――。大人たちの混乱は高校生にも伝わった。

 「当時の生徒たちの一番の関…

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