東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)で重大事故が起きた際、避難所の情報が届く県独自の防災アプリをダウンロードした人のうち、9割以上が利用規約に同意しておらず、情報を受け取れない状態になっている。ダウンロードしただけで機能が使えると誤解していることが理由とみられ、県は同意するよう呼びかけている。
アプリは「原子力防災」(原防アプリ)。県によると、原防アプリを使えるのは石巻、東松島、登米の3市、女川、南三陸、美里、涌谷の4町の在住者のうち、女川原発から30キロ圏内の住民。
原防アプリはデジタル身分証アプリ「ポケットサイン」のミニアプリ(アプリ内のサービス)だ。ポケットサインをスマホなどの通信端末にダウンロードし、マイナンバーカードの情報を読み込ませると、その人が対象の住民の場合、自動的に端末画面に表示される。
原防アプリを通信端末に入れておけば、女川原発から放射性物質が漏れる重大事故の発生時、住所や災害状況を基に個別の避難所の情報が届くほか、避難時に放射性物質が車や衣服などに付かなかったかどうかを調べる「避難退域時検査」の検査済み証を受け取れる。
しかし、これらの機能は原防アプリを立ち上げ、利用規約に同意しなければ使えない。利用規約は原防アプリのサービスで住所や氏名といった個人情報を使うことに同意を求める内容だという。
県はポケットサインのダウンロードを促そうと2023年10月~24年1月、ポケットサインとマイナカードをひもづけた人に5千円分のポイントを付与。先月12日現在、対象の住民は12万8284人がダウンロード済みだが、原防アプリの利用規約に同意したのは約6%の約8千人にとどまっている。
そもそもポケットサインはマイナカードの情報を登録して使うため、個人情報の扱いに不同意していることが理由とは考えづらく、県は「ダウンロードするだけで、原防アプリにも登録されたと多くの人が誤解しているようだ」とみる。「チラシやリーフレットでさらに周知し、訓練時にも同意を促したい」と話す。
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身分証アプリ「ポケットサイン」で顔写真の表示画面を提示するだけで、宮城県図書館(仙台市泉区)の利用カードを作れるようにする実証実験を県が始めた。2月末までで、利用状況を検証し、サービス拡大をめざすという。
ポケットサインはアプリストアからダウンロードし、マイナンバーカードをかざして本人情報を登録して利用する。利用者は先月12日現在で約14万人。先月17日からは顔写真を表示できるようになっており、実証実験もこの日から始めた。
県図書館で利用カードを作る際は身分証の提示が必要だが、あらかじめスマートフォンにダウンロードしたアプリを開き、顔写真が出ている画面を職員に見せれば利用カードが手に入るという。
アプリが身分証の代わりとなり、マイナカードを携帯しなくても手続きが進められるのがメリット。県は今後、別の手続きでも本人確認の手段として認めていく方針だ。
デジタル技術を取り入れ、より効率的に行政運営するDX化の狙いで、県はポケットサインとの連携を強めている。ポケットサインのミニアプリには県独自の避難者支援アプリ「みやぎ防災」などもあり、災害情報が届くほか、端末をかざしてワンタッチで避難所の受け付けができることから、利用拡大を進めている。