「日本人ファースト」を掲げた参政党が、7月の参院選で躍進しました。外国人を敵視する主張が支持を集めましたが、似た事例として思い起こされるのは、移民や難民を敵視して選挙で躍進したドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)です。ただ、両国で起きた右派勢力の伸長は、内実を見ると大きく異なるとドイツ右翼思想に詳しいドイツ文学研究者の長谷川晴生さんは語ります。話を聞きました。(聞き手・平賀拓史)
「ナチとは異なる」ロジック
――長年移民や難民を積極的に受け入れてきたドイツで、排外主義を掲げたAfDが2月の連邦議会選で第2党になりました。こうした極右の伸長をみると、ナチの再来のようにも見えます
AfDをナチと同一視する言説は多いです。確かにAfDの一部にはネオナチとみられる人物もいますが、指導層は自らをナチの後継者だとはあまり考えていないと思います
――なぜ、そう言えるのですか
AfDを含む新右翼勢力は、自分たちをナチではなく、それ以前の、第1次世界大戦後のワイマル期に台頭した右翼の系譜に重ねているとみています。当時の右翼運動は多様で、ナチとは別の勢力が多数存在していました。
ワイマル期右翼と現代の新右翼をつなぐ思想的系譜の一つが、「普遍主義」の敵視です。普遍主義には権威主義を否定するリベラリズム、民族やジェンダーの違いを超えて等しく人権を認める人権思想、進歩主義などが含まれます。第1次大戦で敗れたドイツの右翼にとっては、それらは戦勝国の米英仏という「西側」から押しつけられた外来のもので、その西側が進める帝国主義や資本主義と同じく、ドイツを退廃させるとみなされたのです。
――ナチに通じる考えにも思えるのですが……
こうした右翼運動の一部はやがてナチへも流れ込みましたが、逆にナチと対立して排除された人物もいました。中には今も評価の高い思想家や文学者などの知識人もいます。
そういった系譜に光を当て、「ナチとは異なる」「知的な」右翼がいた、彼らもまたナチの犠牲者だったというロジックを展開したのが、第2次大戦後に西ドイツの政財界で活動したフィクサー、アルミン・モーラー(1920~2003)でした。ナチの過去をタブー視する社会から警戒されていた当時の右翼運動にとっては、モーラーの理論は非常に役立ち、その後も参照されていきました。
こうして成立したのが新右翼です。AfDもその流れにあり、モーラーの弟子筋がAfDの幹部やブレーンに流れ込んでいるという指摘もあります。
新右翼とその反・普遍主義は、長年ドイツ政治では傍流扱いでしたが、近年の移民難民への反感と共鳴し、表舞台に出てきています。AfD構成員の過激な言動も、ナチ賛美が目的というよりは、「ナチ=悪」というような普遍主義を相対化する、というワイマル期右翼から続く発想に立っているといえます。
日本、ドイツの100年間を「一度に輸入」
――自分たちの思想を過去との歴史の中に位置づけているわけですね。参政党の神谷宗幣代表は7月3日の外国特派員協会での会見で、親近感がある政党としてAfDやフランスの国民連合(RN)といった欧州右翼政党を挙げましたが、参政にも似た側面があるのでしょうか
ドイツをはじめ欧州の右翼運…