Re:Ron連載「望月優大 アメリカの観察」第4回
先の参院選では、与党の自民党と公明党が過半数を割り込む惨敗を喫した一方、国民民主党や参政党が大きく議席を伸ばした。両党は比例区でそれぞれ750万票前後を獲得し(自民党が1300万票弱)、合わせて全体の4分の1を超えるほどの得票率となった。
二つの党に共通していたのが、「日本人ファースト」(参政党)や「日本人が払った税金は日本人のための政策に使います」(国民民主党)などという形で、いわゆる「外国人問題」を争点化した点だ。特に参政党のそれは際立っており、BBCが「極右の『日本人ファースト』政党の台頭」という題の記事を出すなど、国外からも注目を集めている。
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だが、そもそも「外国人問題」などというものに、選挙における「日本人」からの人気取り以上の実態がどれほどあったのだろうか。SNSでは「生活保護利用の3分の1は外国人」といった荒唐無稽なデマが拡散されたが、実際は3%未満であり全くの論外だ。福岡資麿厚生労働大臣も、選挙期間中の会見で「医療費に占める外国人の割合が高いということはない。生活保護受給の扱いで外国人を優先することもない」と述べ、デマを打ち消した。
実のところ、国民民主党は参院選の公示直後に、公約に記載した「外国人に対する過度な優遇を見直し」という文言を削除し修正していた。また、参政党の神谷宗幣代表も、開票直後の会見で「外国人に特権? 特に日本ではないんじゃないですか」とさらっと答えていた。
なんということだろう。現実には「優遇」も「特権」も存在しないのに、この選挙を通じて「外国人問題」の大量宣伝にさらされた人たちの一部が抱いた憤り(そしてそれを差し向けられる側の恐怖)だけが、実在しているのだ。
参院選で国民民主党と参政党に投票した人には、あくまで相対的にではあるが、若い世代が多かったようだ。朝日新聞の出口調査によると、両党ともに30代までで全体の4割前後、50代までで8割近くの票を集め、60代以上からの得票は2割超にとどまる。
既存政党の凋落(ちょうらく)やSNSなどメディア環境の変容を背景に、反移民などの右派的なアジェンダを掲げた新興政党が台頭するという現象は世界的に見られるが、それらは必ずしも若年層やいわゆる現役世代の支持を基盤としているケースばかりではない。例えば、強圧的な移民政策を唱え、現在イギリスで最も高い30%ほどの支持率を誇るリフォームUK(旧ブレグジット党)は、その支持者が高齢世代にかなり偏っている。
共和党の支持者の構成を大きく塗り替えたアメリカのトランプ大統領も、相対的に50代以上からの支持が厚い。ピューリサーチセンターの調査によると、過去3回の選挙のいずれにおいても、40代以下の世代では民主党側の候補(クリントン、バイデン、ハリス)がより多くの票を獲得し続けてきた。
■33歳・ムスリム・移民のNY市長候補の躍進
日本で6月の都議選や7月の参院選が話題になっていた頃、アメリカではニューヨークの若者たちによる「番狂わせ」に注目が集まっていた。
4年に1度行われるニューヨーク市長選の民主党予備選(6月24日)で、33歳でほぼ無名のゾーラン・マムダニ(ニューヨーク州議会議員)が、本命と思われた大物政治家のアンドリュー・クオモ(前同州知事)を大逆転で破ったのだ。ウガンダ生まれ、インドルーツ、ムスリム、2018年にアメリカ国籍を取得、といった彼の属性も大きく注目された。
進歩派のバーニー・サンダース(連邦上院議員)やアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(同下院議員)と同じく「民主社会主義者」を自称するマムダニは、民主党内でも最左派に位置し、高騰し続ける生活費の問題を徹底的に焦点化した。TikTokやインスタグラムといった様々なSNSを駆使し、バスの無料化、家賃規制物件での家賃の凍結、富裕層に対する増税などの政策を訴え、大量の若者がボランティアで草の根のキャンペーンを支えた。
その成果は圧倒的だった。マムダニが集めた約47万票という票数は、エリック・アダムス現市長が前回の選挙で得た約29万票より6割以上も多い。今年の予備選では18歳~39歳の投票数自体が大幅に増加し、投票日前の最後の10日間ほどだけで数万人もの選挙登録があった。これまで選挙に参加してこなかった人々、そして今回初めて投票する人々の大規模な掘り起こしに、マムダニ陣営が成功した結果だった。
象徴的なのが、マムダニが昨…