日本では「天国にいちばん近い島」と親しまれる、南太平洋のフランス領ニューカレドニアで大規模な暴動が起きた。引き金となったフランス政府の施策は、独立派の先住民から「植民地主義」と批判された。多くの旧植民地が独立を果たした現在に、なぜこのような事態が起こるのか。フランスの植民地史に詳しい武蔵大学の平野千果子教授に聞いた。
〈ニューカレドニア〉 南太平洋に位置する四国とほぼ同じ大きさの島。人口約27万人。5月、フランスからの独立を目指す住民のデモをきっかけに、死傷者が多数発生する暴動が発生した。日本では、ベストセラーとなった森村桂さんの旅行記、それを監督・大林宣彦さん、主演・原田知世さんで映画化した「天国にいちばん近い島」の舞台となったことで知られる。
――時代錯誤にも思えるようなことがなぜ現代に起きたのでしょうか。
「直接的なきっかけは、フランス政府が進める憲法改正でニューカレドニアの選挙で投票権を入植者に拡大する動きがあることに、先住民のカナクを中心とする独立派が抗議したことです。ただ、問題がここまで大きくなった前段に、2021年に行われた独立の賛否を問う住民投票があります」
――住民投票は民主的に思えますが。
「ニューカレドニアでは1970年代後半から独立運動が活発になりました。独立派と反独立派の間で流血の事態が起き、89年には独立を目指すカナク社会主義民族解放戦線(FLNKS)の議長が暗殺されるなど、事態は混乱をきわめました。そのため98年に独立派、反独立派、フランス政府の間で、独立を問う住民投票が最大3回までできる協定が結ばれます」
「2018年にあった初回の住民投票では賛成43・3%に対して反対56・7%で独立否決、2回目の20年も賛成46・7%に対して反対53・3%で独立は否決されたものの、独立派が勢いを伸ばしました。このため3回目が注目されましたが、協定では2年後としていたものが前倒しとなる21年に、コロナ禍の中で強行されました。票の掘り起こしの時間を奪われた独立派は反対して投票をボイコットし、過去2回は8割超だった投票率は4割台に。結果として独立が見通せなくなったことが、今回の事態につながっています」
――投票結果を見ると、住民の意見はまさに二分されています。
「ニューカレドニアの人口のうちカナクは約4割。フランスを中心とするヨーロッパ系の住民が約3割で、他に様々な地域からの入植があります。カナクの中にも独立反対派はいるのですが、基本的に白人が上位を占める植民地型の社会です。反独立派にとっては今の社会の方が好ましいですし、分断は埋めがたいものがあります。フランスは現在もニューカレドニアへの入植を推進していて、憲法改正案では10年間定住すれば投票権を与える方向です。カナクからすると、このままでは独立がさらに遠のくとの危機感があります」
- 暴動の傷残るニューカレドニア 「独立」では解決しない島嶼国の問題
――アジア、アフリカ地域では第2次世界大戦後に多くの国が独立を果たしました。なぜニューカレドニアでは今もこのような状態なのでしょうか。
「1958年、シャルル・ド…