利根山光人「いしぶみ」

 昼なお暗いジャングルを抜けると、灼熱(しゃくねつ)の太陽の下に古代の神々が待っている――。1959年の夏、初めてマヤ文明の遺跡を訪ねた時の印象を、利根山光人(こうじん)はこう記している。「怪奇なマヤの想像力に出あってしまった。雨神チャックは目をむき、鼻をならし、カラカラと笑っていた」

 本作のモチーフといわれる雨神チャックは雨をつかさどる豊饒(ほうじょう)の神であり、洪水を起こして人々の暮らしを破壊する邪神でもある。ゾウのように長い鼻と牙を持つとされるが、ただし、この絵のどこがチャックの顔にあたるのかは判然としない。目玉に似た同心円や、右上のかぎのように曲がる形が、かろうじてその存在を示している。

 むしろ印象的なのは、マヤの…

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