盤上でも盤外でも、発するオーラは常にやわらかだった。第49期囲碁名人戦七番勝負に登場した挑戦者、一力遼棋聖(27)は、それまでの一力ではなかった。課題のメンタル強化と、19年ぶりに日本に世界タイトルをもたらした自信が共振し、名実ともに天下人になった。
- 囲碁の一力が名人奪取 芝野に勝ち、史上4人目の「名人棋聖」に
20歳のころに技量はすでに超一流の域に達していた。しかし大一番に弱かった。
早稲田大学2年の2017年から18年にかけて、七冠独占の絶頂にあった井山裕太三冠に王座、天元、棋聖の3棋戦で立て続けに挑戦し、一つも勝てず10連敗した。
手も足も出なかったわけではない。「実力的に井山さんからタイトルを奪取しても不思議ではなかった」。今期名人戦でタイトルを明け渡した芝野虎丸名人は言う。なぜ勝てなかったのか。
たどり着いた「爾今」の境地
勝ちたい、勝たなければなら…