取材に応じた健大高崎の箱山遥人。社会人野球の強豪、トヨタ自動車への入社が内定している

 野球人生最大の挫折と思われた「あの日」から、2カ月弱。群馬・健大高崎高の箱山遥人(3年)は、驚くほどあっけらかんとしていた。「気にしていないですね。今はもう、次に向けてって感じです」

 10月下旬のプロ野球ドラフト会議で、「世代ナンバーワン捕手」と称された箱山は指名漏れした。それは本人や監督、スカウトも驚く結果だった。

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 プロでも貴重な「打てる捕手」。二塁送球タイムが2秒を切る強肩に、高校通算35本塁打の長打力を備える。2年秋からは主将として、時に厳しい言葉で仲間をまとめた。今春の選抜大会は初優勝。夏は9年ぶりに全国選手権大会に出場した。

 高校日本代表に選ばれ、ドラフト前に12球団から調査書が届いた。育成指名は断る意向だった箱山に対し、複数のスカウトが「(支配下の)指名は絶対あるから」と告げた。「正直、どこのチームに行けるかだと思っていた」。それでもメディアが大挙した会見場で、箱山の名は呼ばれなかった。

 高校生にとっては、人間不信になってもおかしくない残酷な現実。だが、箱山は不満を一切口にしなかった。矢印を向けるのは、自分自身だ。

 「評価と指名は別物だと思いますし、チームの事情もある。自分が『誰が見てもほしい』って思われる選手にならないといけなかった。捕手としては動きのスピード、打者としては右方向への長打が足りていない」

 自分の力を過大にも過小にも評価せず、愚直に鍛錬する。そんな修行僧のようなメンタルは、この1年で一貫していた。

 昨年の秋季関東大会で4強入り。出場が決まった選抜大会では、優勝候補に挙げる声はほとんどなかった。それでも箱山は大会前の抽選会で淡々と手応えを語っていた。「これで日本一になれなければしょうがないと思うチームができた」

 大言壮語をはいたわけでも、自己暗示をかけたわけでもなかった。仲間には「ふさわしい戦力にならない限り『日本一』って言うな」と釘を刺していた。「冬の練習を終えて、日本一になれる自信と根拠があった」。言葉通り、下級生の投手陣を強気なリードで引っ張り、打っては5試合で打率4割4分4厘、6打点の成績を残す活躍ぶりだった。

 大会後は春夏連覇の重圧と戦い、「聞きたくない声も聞こえてきた」。体調を崩した時期もあったが、高みをめざすための試練と捉えた。「プロはそれがかわいいと思えるぐらいの批判が届くと思うので」

 覚悟を見たのは夏の群馬大会、桐生第一との3回戦。1点を追う九回裏無死一、二塁だった。極限の場面でも、冷静に状況を客観視した。相手投手との相性、次打者の打力を照らし合わせ、自らの判断で初球を送りバント。同点打を呼び込み、勝利につなげた。「確率の高い方を選んだだけ」。「夏に勝てない」と揶揄(やゆ)されたチームを甲子園に導いたのは、主将の決断力と献身性だった。

 卒業後は社会人野球のトヨタ自動車へと進むことが内定した。今秋の日本選手権を制した強豪にあって、高卒で正捕手をつかむのはたやすくないが、「そこで勝つぐらいじゃないとプロにはなれない。捕手は良い投手の球を受けて成長できる」。

 ドラフト指名が解禁されるのは3年後。選ぶなら、険しい方へ。箱山らしく「我が道」を歩んでいく。

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