ベトナム北部の渓流での採集風景。一番奥にいるのが高岡さん=2014年、本人提供

 新聞社の書評や、本に関する記事で専門書、なかでも英語のものを取り上げる機会はほとんどない。でも、この夏に出版された英文の学術書「亜熱帯および熱帯アジアのブユ」と、著者で大分大学名誉教授の高岡宏行さん(79)のことを少し紹介させてほしい。

 吸血昆虫のイメージがあるブユ(ブヨ)は、体長数ミリ。世界で約2400種が知られる。刺されると強いかゆみや腫れをともなうことも少なくない。感染症を媒介する種もいる。一方で幼虫やサナギの時代を清流で過ごすものが多いことから、水質の指標にもなっている重要な生物だ。

 高岡さんは、終戦の年に熊本県で生まれた。ブユとの付き合いは、1969年に鹿児島大学医学部の助手に採用された時に始まった。ブユが媒介する感染症の研究を、教室の助教授に勧められたのがきっかけだ。その時点では「名前は聞いたことがあるという程度の存在」だったそうだ。

全世界のブユの2割を記載

 本で取り上げた熱帯や亜熱帯アジアのブユは、当時まだ80種程度しか知られていなかった。50年以上の間、高岡さんはブユを探し、詳しく調べて、本を出すまでに526種の新種を記載してきた。これは世界で知られるブユ全体の約22%にあたるという。

キアシツメトゲブユのメス成虫。体長は約3ミリ=高岡宏行さん提供

 本では、同地域で知られる未記載種を含む719種の形態や分布、吸血する習性などを紹介。もちろん、高岡さん自身が記載したブユもたくさん含まれている。

 全751ページを詳細に読むことはとてもできなかったが、ぱらぱらとめくってみた。

 「Takaoka」「Tak…

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