紛争の始まりは突然だった。
昨年4月15日朝、アフリカ北東部・スーダンの首都ハルツーム。同国で医療支援をするNPO法人ロシナンテス理事長の医師、川原尚行さん(58)が自宅にいると、激しい爆発音が聞こえてきた。
「ああ、ついに戦闘が始まってしまった」。国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による戦闘だった。
スタッフの命を守ることを最優先に、国外退避を決めた。約800キロを睡眠もとらずに約30時間運転。9日後、東北部の空港から自衛隊機で退避した。
スーダンで武力衝突が起き、国外退避を余儀なくされた邦人たちが帰国して29日で1年。2006年から医療支援を続けてきた医師の川原尚行さん(58)もその1人です。
安心したとたん、国に残るしかできないスーダン人たちへの思いがわいてきた。
「家族や親しい人たちがバラバラになってしまったことが悲しい。スーダン人は誰ひとり、戦争なんて望んでいないのに」
退避時、戦禍から守るため持ち出した「無東西」と書かれた掛け軸がある。10年ほど前、東京の支援者から教えてもらった言葉。「立ち位置を変えれば、世界には東も西もない」という平和を願う言葉だという。
支援者の父親は弓道の達人だった。弟子が第2次大戦で戦地へ向かう際、「無東西の精神を胸に秘めて行ってきなさい」と説いたという。
川原さんは心を揺さぶられた…