現場へ! 老いたデカセギ日系人(3)
「臭いがする」
愛知県豊田市の保見団地で自治会の役員らは2024年5月、そんな連絡を受け、団地内の一室に入った。玄関で男性が倒れ、喀血(かっけつ)をしていた。足が悪く、杖をついて暮らしていた60代の日系ブラジル人。死後2週間ほどたっていた。「孤独死」だった。
男性は話し好きで、趣味のカメラを持ち歩いていた。役員らは、生前に男性を孤立させてしまい、SOSを受け取れなかったことを悔やむ。「病状が悪くなった時、何とかならなかったのか」
23年4月には、団地内で暮らしていた60代の日系ペルー人の男性も、死後1カ月ほどたって見つかった。ペルーで妻を亡くし、息子を残したまま、1993年ごろに単身で来日。デカセギとして、自動車部品工場で働いていた。
ペルーから息子を呼び寄せたが
団地で日系人らを支援するNPO法人「トルシーダ」代表の伊東浄江さん(68)は、来日時からこの男性を知っていた。日本語教室で教えていた際、男性は生徒として通っていたといい、ペルーから呼び寄せる息子について、うれしそうに話していたという。
だが、来日した息子は、日本の学校になじめなかった。非行に走り、盗みも働くようになり、まもなく家出をして、音信不通になった。息子は職場のトラブルでクビになり、ホームレスになっていた。「病院の集中治療室で生死をさまよっている」と連絡を受けた伊東さんが、息子の状況を男性に伝えに行くと、男性は言い放った。
「死ぬなら死んでくれ」
伊東さんが、男性と最後に会…