全国知事会長を務める宮城県の村井嘉浩知事の発言をきっかけに「国民スポーツ大会」(旧・国民体育大会)を巡る議論が活発になっている。村井氏は8日に「廃止も一つの考え方」と発言。15日にも改めて見直しの必要性を強調した。
国スポは、日本スポーツ協会、文部科学省、開催地の都道府県の3者で共催し、各都道府県の持ち回り方式で原則、毎年開催する。1946年に第1回大会があり、2034年に2巡目の開催を終える予定だ。
村井氏は8日、都道府県の財政負担が重いなどとして、国スポが3巡目を迎えるにあたって「聖域とかタブーとかいうのを抜きにして、全くの白紙の状態で議論した方がいい」と指摘。知事会として47都道府県の意見を集約中で、今後、日本スポーツ協会に提出する方針を明らかにした。
県によると、選手団の旅費や宿泊費を県で負担しており、22年に栃木県で開催された大会では658人を派遣して約6300万円を支出。昨年の鹿児島大会では1億円を超える支出があったという。
村井氏の発言には各知事が反応した。「今までのような形で開催するのは極めて困難だろう」(岩手・達増拓也知事)、「廃止とまでいかなくても工夫の余地がある。いまのやり方がベストか見直さないといけない」(茨城・大井川和彦知事)と賛同する意見が出た。一方で、栃木県の福田富一知事は「大変だから、お金がかかるからということだけで中止になることはあってはならない」と指摘した。
「問題提起してよかった」。15日の会見で村井氏は満面の笑みを見せた。見直しの議論が進んでいる事実を周知できたとして「ゼロベースで考え直す機会にできれば」と改めて見直しの必要性を訴えた。
ただ、一方で「大きなスポーツ大会を何もかもやめてしまえということではない」とも。見直しの方向性として「開催場所は各都道府県の持ち回りではなくて、集まりやすい場所で」「各都道府県対抗ではなく、ブロック単位でもいいし、都道府県の順位をつける必要はさらさらない」「どちらかというと、光が当たらないスポーツ、あるいは障害を持っている方たち、行政がサポートする必要があるものに限定してもいいんじゃないか」と提案した。
参加費用に関しては「自己負担も含めてしっかり見直すべきだろう」と明言。高校野球の甲子園大会を例に、国民の関心の高いイベントでも、県の支援がないものがあるとして、財政負担の額だけではなく、あり方にも「バランスが取れていない」と疑問を呈した。(福留庸友)
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「結果を残す知事会」――。昨年9月に全国知事会長に就いた村井氏はそんな大方針を掲げた。取り組みの優先課題に挙げたのが、人口減少社会に向けた行政の「スリム化」。そこでやり玉にあがったのが、国民スポーツ大会だった。
日本スポーツ協会はすでに国スポの3巡目に向けた議論を始めていた。知事会としても、協会の議論にオブザーバーとして参加するようになった。
だが、昨年以降、協会との間で進んでいたやり取りは、8日に村井氏が廃止論に言及したことで、一気に表に噴出した格好になった。「税金の使い道がこのままでいいのかどうか、意識を喚起するいいきっかけになった」と村井氏は語る。
「まさに村井流だ」。ベテラン県議はそう話す。これまでも、水道の「公設民営化」など賛否が分かれる施策を推し進めてきた。この県議は「賛否両論さまざまな意見があるだろうが、問題提起をすることが大事。他の知事ではなかなかできなかっただろう」と語った。
ただ、発言が寝耳に水だった協会関係者の間には波紋が広がった。ある協会幹部は「いきなり『廃止』とぶち上げるのはいかがなものか」と苦言を呈した。(中島嘉克)
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「国スポ」巡る村井知事の主な発言
〈8日〉
「国体(国スポ)が間もなく2巡目が終わる。3巡目以降どうするのか、今と同じようなやり方で人口が減っていく中で、特に今と同じように47都道府県の対抗戦といったような国体でいいのか」
「個人的な考え方として、廃止も一つの考え方ではないかなと思っている。今の国体のやり方を一回廃止する。ほかのやり方を考えればいいんじゃないか」
「非常に財政的な負担は大きい。毎年、旅費だけでも相当かかっている。47都道府県で順位をつけても、人口の多いところの方が選手の層が厚い。小さな都道府県は非常に選手が出しづらい。その中で順位を競って、本当に意味があるのか」
〈15日〉
「『廃止も視野に』というのは『発展的解消も視野に』という意味。47都道府県が都道府県対抗で大運動会をやるということについては一回見直す必要がある」
「光が当たらないスポーツや障害を持っている方のスポーツ、そういった人たちをサポートする必要があるものに(種目を)限定してもいいのでは」
「各都道府県対抗ではなく、ブロック単位でもいいと思う。都道府県の順位をつける必要はさらさらない」
「人口が減り、税負担が重くなる中、特定の人たちだけに光があたるような施策でいいのか。納税者が納得できるような税金の使い方を考えるべきだろう」