編隊を組む海上自衛隊のP1哨戒機=2025年1月9日午前、富士山周辺、P1機内から土居貴輝撮影

 海上自衛隊の初の純国産哨戒機「P1」の運用状況を会計検査院が調べたところ、エンジンの不具合などで、一定数の機体が任務で飛行できない状態だった。2023年度までに生じた国の支出は計1兆7766億円。検査院は「多額の国費が投じられており、防衛省は改善に取り組む必要がある」と指摘した。

 哨戒機は周辺海域で外国の潜水艦や不審船を監視する。中国が海洋進出を強めており、今月上旬にも、中国戦闘機が太平洋の公海上で海自の哨戒機に異常接近するなど緊張が高まっている。だが、実際には一部の哨戒機が飛行できなかったり情報収集の機器が使えなかったりして、任務を遂行できていない実態が判明した。

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 P1は米ロッキード社製P3Cの後継機として、川崎重工業など国内企業が開発。13年に初めて配備され、24年9月現在、鹿屋(鹿児島県)、厚木(神奈川県)、下総(千葉県)の各航空基地に計35機が置かれている。防衛装備庁は計61機を配備予定で、必要な経費を計4兆907億円と見積もる。全額が国費負担だ。

 検査院は今回、23年度までに金額が確定した経費を算定。開発や購入、修理などに計1兆7766億円がかかっていた。

 さらに35機について19~23年度の運用状況を調べたところ、不具合などで監視活動に当たることができる機体が限られており、「可動状況は低調」になっていた。ただ、具体的な数については、防衛省が「情報が公開されると国家の安全が害されるおそれがある」としているため、検査院も公表しなかった。

塩分が付着、素材が腐食

 検査院は原因として、エンジンの腐食による性能低下▽電子機器の不具合▽交換部品の調達の遅れ、の3点を指摘した。エンジンは海上を長時間飛行することで塩分が付着し、素材が腐食していた。継続的に一定数が使えず、飛べない状態になっていた。

 装備庁は開発中の試験段階で、同様の不具合の報告を受けていた。だが、エンジン開発を担ったIHIから「不具合は偶発的に発生したもの」などと報告され、特別な処置は不要と判断していた。検査院は当時の判断については「必要な検討を行っていた」としつつ、「今後は分析結果を設計に反映させる余地はある」と指摘した。

 目標の情報収集に使う電子機器や、機体に搭載した武器についても不具合が発生。一部の不具合は、開発時に十分に検討されていなかった可能性があるという。

 定期的に交換が必要な部品についても、国際情勢の急変や半導体不足などで納品が長期化し、必要な時期に調達できていなかった。

 防衛省は取材に「指摘を真摯(しんし)に受け止め、引き続き可動状況の最大化に努めていきたい」とした。

P1哨戒機開発の経緯

1977年 防衛庁(現防衛省)が米ロッキード社製P3C哨戒機について、川崎重工業によるライセンス生産を決定

 83年 P3Cの運用を開始

 95年 政府がP3C後継機の検討などを閣議決定

2000年 防衛庁が哨戒機を国内開発する方針を表明

 01年 開発の主担当企業が川崎重工業に決定

 06年 同社が試作機を納入

 07年 1号機が初飛行

 13年 防衛大臣がP1の使用を承認、初配備

(会計検査院の報告書などから)

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