タイ国会の最大政党で革新系野党の前進党に対して、憲法裁判所が7日、解党を言い渡すとの観測が高まっています。タイの民主主義はどうなるのか。今も国内で絶大な人気を誇り、米誌タイムから「次世代の100人」にも選ばれた同党創設者ピター前党首にインタビューしました。
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――憲法裁判所による解党の動きに対して、前進党はどう対応してきましたか?
日本語で言えば、まず「我慢」です。辛抱強く信念を貫き、党の存続のために、政治的、法律的にあらゆる手段を尽くして闘うことです。
もう一つは「金継(きんつ)ぎ(壊れた陶器を漆を使って修繕する日本の伝統技法)」です。党がたとえ解体されたとしても、私たちの存在意義は残る。(壊れたものをつなぎ合わせる)金継ぎのコンセプトが必要になります。
私たちが闘うのは、自党のためだけでなく、政党を破壊し続けるタイの悪循環を絶つためです。タイでは過去20年あまりで10以上の政党が政治的理由で解党されました。
その結果が「失われた20年」です。昨年の経済成長率は1.9%。東南アジア諸国連合(ASEAN)で第2の経済規模なのに、成長率は下の方で低迷しています。
選挙で勝った政党を潰す。次の選挙で勝った政党もまた潰す。この悪循環を繰り返している間に20年が失われたのです。
ピター・リムジャラーンラット氏
タイの革新系野党・前進党の創設者。23年の総選挙で第1党となり、首相指名を目指したが、親軍保守派の影響下にある上院の反対でかなわなかった。大学院が6月に実施した世論調査では、首相にふさわしい人として45・50%の支持を集め、2位のセター首相(12・85%)を大きく引き離した。43歳。
――解党の手続きは選挙管理委員会や憲法裁判所が進めていますが、あなたが実際に闘っている相手は何だと考えますか。
変化への抵抗勢力、エスタブリッシュメント(支配層)です。(憲法裁や選管は)憲法で「独立機関」とされていますが、問題は誰から独立し、本当に独立しているのかということです。権力の抑制と均衡のために機能しているのか。あるいは政敵を倒すために使われているのか。
独立機関は本来、国民のために権力を監視して抑制するはずのもので、政党を潰したり、選挙を通じた民意の力をそいだりするためのものではない。これは選挙による民意の力と、上から抑えつけようとする支配層の闘争です。
――支配層とは何ですか?
一つは「カーキ(軍服)資本主義」。軍部と独占資本の結合体です。タイ国内に軍のゴルフ場は75あります。各地に四つ星、五つ星のホテル、ヨット、サッカーチーム、ボクシングのリングまである。
軍は外敵から国民を守るためのもので、内政に介入するためのものではない。なのに13回も軍事クーデターを起こしている。
もう一つは王朝政治です。日本もそうですが、縁故主義により、親の名前だけで政治家の地位を得る世襲がタイでも起きている。
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