千葉県柏市のコンゴ料理店「モティンディ」の店主マテゾ・ショーン・パピさん(左)と妻の舞子さん=2024年5月22日午後6時20分、マハール有仁州撮影

 大学時代、世界各地の旅先で国際政治の流れに翻弄(ほんろう)される人々に出会ってきた。紛争、弾圧、死者数――。出来事や数字といった「データ」からは分からない一人ひとりの人生を伝えたい。その思いから新聞記者になった。

 千葉総局で4月から県政担当として働く傍ら、初心を思い出そうと、世界の政治状況に翻弄された人々の取材を始めた。

 私たちの「隣人」でもある海外の料理店の店主は、戦争や政治的な混乱、夢の実現など、様々な事情で日本へわたってきていた。料理を切り口に、店主の人生に迫る連載「千葉の食堂から」を5回にわたって執筆した。

 台湾料理店の店主は、白色テロ時代に軍人に殴られ、前線基地では長期間の訓練に耐えた。コンゴ料理店の店主は、性暴力や強制労働などで深刻な人道危機にあっていた知人女性を救った。

 そのほかにも、スリランカ内戦下で武装勢力に連れ去られた同級生、ペルーの左翼ゲリラによるテロで亡くなった友人、ウクライナ侵攻後に受けた誹謗(ひぼう)中傷…。

 私が話を聞いた相手は、教科書やニュースで知る出来事を、生身で生きてきた一人ひとりだった。

 全員ともに、特殊な人でも、それまでに特別な経験をしたわけでもない。生まれ育った国や地域で学校に通い、家族との語らいを楽しみ、まじめに働いてきた心優しい人々だった。

 そんな「普通」の人たちを取材して強く感じた。

 「国際政治に無関係な人はいない」

 記事を通じ、そう実感させてくれる「隣人」が、読者の身近にも暮らしていることを知っていただけたのであれば、記者冥利(みょうり)に尽きる。

 そんな私もまた、世界とつながっていることを感じて生きていきたいと思う。

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