ヒ素公害の環境復元工事が終わった高千穂町・土呂久地区で、大学生や高校生がフィールドワークをしている。現場を踏んで教訓を知り、過疎の山村の振興策を住民と共に考える。国が同地区を公害病の地域に指定して半世紀。未来を探る取り組みが進む。
9日、宮崎国際大のプロジェクトチームの学生6人が、記録作家の川原一之さん(77)と高千穂町職員の引率で、ヒ素を含んだ鉱石を掘り出した主要な坑道「大切坑(おおぎりこう)」を見学した。
入坑前に鉱山や公害、復元工事の説明を受けた学生たち。入り口から約530メートルの、人が入れる一番奥まで歩いた。途中、崩れた旧坑や今も噴き出す水に驚きながらカメラで記録した。
小学校の教師になる都城市出身の教育学部4年、戸高愛莉さん(21)は「宮崎はすばらしいところだが、影の部分を知るのも大事。二度と過ちを犯さないよう、子どもたちに伝えていく」。県内の食肉会社に就職する高千穂町出身の同学部4年、高松泰人さん(22)は「土呂久との関わりを続けたくて、地元で勤めることにした。公害の中、どんな思いでみんな働いていたのか、考え続ける」と話した。
学生たちは今後、記録をまとめてネットで発信していくという。
川原さんは元朝日新聞記者。2019年から本紙宮崎版に「土呂久つづき話」を181回連載し、加筆も含めた集大成を「和合の郷 祖母・傾(かたむき)山系土呂久の環境史」として24年春に出版した。
「若者には、地元とふれあいながら、今後も公害を伝承し、過疎と向き合っていってほしい」と話している。(星乃勇介)
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宮崎県は、高千穂町の旧土呂久鉱山で起きたヒ素公害を学ぶ講演会を、12月14日午後1時半から県庁防災庁舎5階(宮崎市)で開く。
講師は同市在住の写真家、芥川仁さん。法政大を卒業後、フリーの写真家に。1973年から土呂久公害や水俣病を取材し、「土呂久・小さき天にいだかれた人々」などの写真集を刊行してきた。
演題は「土呂久のつぶやきを聴く」。参加費は無料で定員100人。オンラインでも配信する。聴講希望者は12月12日までに県環境管理課(0985・26・7082)へ申し込む。(星乃勇介)
〈土呂久公害〉土呂久地区は高千穂町役場から北東に約8キロの大分県境の山村。県によると、旧鉱山は大正時代に鉱石を焼いて亜ヒ酸を作り始めた。1962年に閉山したが、煙害で住民に慢性ヒ素中毒症が多発していることが分かり、73年に国が地区を公害病の指定地域とした。認定患者は2024年3月時点で218人、存命は41人。(星乃勇介)