民族の祭り「ネウロズ」に集う在日クルド人=2024年3月20日、さいたま市、浅倉拓也撮影

 在日クルド人に対するヘイトスピーチや差別が後を絶たないことを受け、大阪弁護士会は6日、日本クルド文化協会のワッカス・チョーラク氏や識者を招いたシンポジウムを開いた。インターネット上で始まったヘイトスピーチが、現実社会での差別に広がっていく深刻さについて議論した。

 クルド人は主にトルコ、シリア、イラン、イラクでそれぞれ少数派として暮らす民族だ。埼玉県川口市や近隣には1990年代から、母国での差別や迫害を理由に難民認定を求めるトルコ国籍のクルド人が集まるようになり、現在は2千人ほどが暮らしているとみられる。

 日本でトルコ国籍のクルド人が難民認定された例はほぼなく、在留資格を失ったままの家族も少なくない。一方、解体業の経営などで在留を認められている人もいる。川口市には5万人近い外国人が住み、クルド人は少数派だ。

 一部クルド人によるトラブルや在留資格の問題がネット上でにわかに注目されるようになったのは約2年前。チョーラクさんは「それまで差別されることなく平和に暮らしてきたのに、急に『クルド人問題』が出てきた」と訴えた。

 ネット上では「川口は治安が悪く、女性が1人で歩けない」など、極端に誇張された言説も目立つ。偏見はネット空間を超え、市内ではクルド人への攻撃的な街頭宣伝をしたり、子どもを隠し撮りしてネットでさらしたり、クルド系の会社や店に嫌がらせをしたりする行為が相次いで起きている。

 7月の参院選では、大阪でも「川口では『クルド人問題』が起きている」などして、移民の規制を訴える候補がいた。

 この問題の取材を続けてきたジャーナリストの安田浩一さんは「『クルド人問題』は存在しない。あるのは、日本人、日本社会の問題で、差別する側の問題だ」と指摘した。

 安田さんは、102年前の関東大震災で在日朝鮮人が暴れているといったデマが広がり、多数の朝鮮人らが一般の日本人によって虐殺された歴史にも言及。「デマは人を殺す。差別は人を殺す。当時と同じデマが、いまはクルド人に向けられている。この社会はまったく変わっていない」と警鐘を鳴らした。

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