東日本大震災で津波被害にあった街で初夏の民家の庭を彩っていたであろう白いフジの花の絵が、東京都美術館(東京・上野)で展示されている。驚くのは、網の目のように地をはい、覆い尽くす姿だ。「tsunami plants」(ツナミプランツ)。津波の後に現れた植物をそう名付けて描き続ける、東京都多摩市の画家、倉科光子さん(63)の作品だ。
同美術館で開かれている「大地に耳をすます 気配と手ざわり」展。倉科さんら5人の作家による「未開の大自然ではなく、自然と人の暮らしが重なる場」で生まれた作品計102点が並ぶ。
倉科さんは、東日本大震災を機に、津波が種を運んできたり、地中深くで眠っていた「埋土種子」を津波が掘り起こしたりして姿を現した植物の姿を描いている。
「沿岸部だけではなく内陸部でも、人が住んで暮らしがあったところの、津波の後の変化を、がれきではなく、植物を通して絵にとどめておきたい」
仙台・荒浜で出会った1枚の写真
昨年、仙台市若林区の「せんだい3.11メモリアル交流館」で企画展を開いたとき、同区の荒浜で撮られた1枚の写真に出会い、目を奪われた。
地面に広がる白い花をよく見ると、フジだった。津波に棚が流されたためか、巻きつく先を求め、つるが複雑に交差しながら一面に広がっていた。
津波が来なければ、人が暮らし続けることができれば、決して見ることはなかったであろうフジの姿に、倉科さんは強い生命力を感じた。
倉科さんは、写真を撮影した佐藤豊さん(87)を訪ねた。
荒浜で生まれ育った佐藤さん…