連載「もうひとつのやまゆり園」⑦=完
小田急線秦野駅の近くにある神奈川県立障害者施設「中井やまゆり園」の活動拠点「らっかせい」(秦野市)で、職員と入所者計8人が牛乳パックから取り出したパルプを細かくちぎる作業にあたっていた。近くの商店を回って集めたものをリサイクルして、コースターやうちわにする。
担当職員の冨重敦雄さんは入所者が作業をする度に「ありがとう」と声をかける。「意味がある大事な作業だと伝えています。やり遂げれば達成感も得られます」。職員も一緒に作業することで共感し合う関係も生まれるという。
園は2021年に入所者の居室を長時間施錠している問題が発覚して以降、入所者が外出する機会を増やしてきた。
らっかせいでは入所者は近くの公園の落ち葉拾いや郵便局のちらしを折る作業にもあたっている。住民らと接することで、入所者の成長にもつながるという。
ある入所者の男性は服や帽子を身につけるのが苦手だったが、帽子をかぶれるようになった。
きっかけは一昨年の夏の炎天下に商店街を歩いていたときのこと。ある店主から「これ、かぶりなよ」とメッシュの帽子をプレゼントされ、不思議とその帽子はかぶることができた。
いまは丸いオシャレな帽子を愛用している。冨重さんは「ダンディーだね」と声をかける。
関連ページ やまゆり園事件
神奈川県は、七つある県立障害者施設のうちの四つに県の花の名を冠し、「やまゆり園」と名づけている。その一つ、津久井やまゆり園(相模原市)で2016年、入所者19人が殺害される事件が起きた。同園を調べる中で、中井やまゆり園でも虐待を含む不適切な支援が行われていたことが発覚。県立の施設で、なぜ障害者を「人間として見ない」支援が横行していたのか。「もうひとつのやまゆり園」を取材した。(連載「もうひとつのやまゆり園」(全7回)はこのページに掲載します)
体験格差を埋める
園は25年中に秦野市に新たな拠点「第2らっかせい」を設ける計画だ。園長の井上一さんは、学生や高齢者も一緒に活動できる場にすることで「ごちゃまぜにしたい」と意気込む。入所者が豆を選別し焙煎(ばいせん)したコーヒーや、畑で地域の住民と育てた野菜を高齢者らと楽しむ光景を思い描く。
井上さんは星槎国際高校や星槎大学を運営する学校法人国際学園(横浜市)の理事長や星槎大学の学長を務めた。
星槎国際高校は通信制で、全…