色とりどりの商品が並ぶ、オーストリアの首都ウィーンのマーケット。店の目の前の停留場に「トラム」と呼ばれる路面電車が止まる。低床のLRV(ライト・レール・ビークル)が歩道ギリギリを走る。
1編成は5両と長く、車内に余裕がある。ベビーカーを使う親子も段差なしで乗り降りできる。信号は路面電車などの公共交通優先で待ち時間は短く、停留所には2~3分ごとに車両が現れる。
ウィーン工科大学客員教授として現地で暮らす宇都宮浄人(きよひと)・関西大学経済学部教授(64)=交通経済学=は、市民生活の中に溶け込む、こうしたヨーロッパの路面電車を「街づくりの装置」と形容する。
- 農村を都市へと変えた宇都宮LRT 新たな時代開く「装置」となるか
ウィーンでは、総距離171キロのトラムネットワークが網の目のように張り巡らされているという。
歩行者との距離が近いトラムは、日常生活の一環だ。市民は、365ユーロ(日本円で約6万円)で買える年間パスを使う。1日あたり1ユーロ(同約160円)で、市内であれば、地下鉄やバスを含めて公共交通は乗り放題だ。「動く歩道のようだ」。ウィーンの暮らしに欠かせないツールだと、宇都宮さんは語る。
トラムに乗る時、日本のように運転士が切符をチェックすることはない。ICカードをタッチする必要もなく停留場の停止時間は短い。切符の検査は抜き打ちで行われ、違反すると高額な罰金が取られる。
欧米でも一時期は廃止に
そんな路面電車は、英国やフランス、米国のまちでも定着している。だが、海外の公共交通政策に詳しい宇都宮さんによると、欧州では一時期、路面電車が廃止される流れが強まった。英国とフランスでは1960年代、車社会化が進み、邪魔者扱いされた路面電車はほとんどが廃止になったという。
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