都道府県の枠にとらわれず、地方の公立高校に進学する「地域みらい留学」への関心が高まっている。地方ならではの教育効果を望める一方、受け入れ側には地域活性化への期待もある。東北でも参加校が増加。どんな生徒を受け入れているのだろうか。最新の事情を探るため、二つの高校を訪ねた。
大間高校で「釣り部」
「でかいの1匹、来い!」
6月、マグロで有名な青森県大間町の奥戸(おこっぺ)漁港。県立大間高校の「フィッシング同好会」1年、山崎晴仁さんが、津軽海峡に向かってめいっぱい釣りざおを振った。
茨城県龍ケ崎市出身。小学生のころに川釣りを始め、とりこに。青森とは縁もゆかりもない。進路を考えた時、小学生時代に知った「地域みらい留学」を思い出した。
海が近くにある高校に行きたかった。中学3年だった昨秋、東京で行われた説明会で「釣り部をつくりたい」と同校担当者に提案すると、OKが出た。学校や地域を見学して受験を決め、入学後すぐ同好会を立ち上げた。
同校の地域みらい留学で唯一の1期生となった山崎さんは、かつて企業の社宅だった一軒家で一人暮らし。学校の授業料以外の負担は、家賃や朝晩の食費、光熱水費を合わせた月3万円(昼食代は個人負担)だ。
全校生徒約120人の大間高校は生徒の減少が続く。そこで目をつけたのが、全国から生徒を募集する地域みらい留学制度だった。担当の佐藤圭教諭(26)は「地域が衰退する。今から動かないと手遅れになる」と語る。
地元の生徒への影響にも期待する。佐藤さんは「地元の子どもと違う経験をしてきた生徒が、新しい風を吹かせてくれる」という。
フィッシング同好会は2年生2人と1年生2人の4人。大間町で生まれ育った2年の伊藤友哉さんは山崎さんについて、「話していて新鮮。釣りのアドバイスもしてくれるし、もうなじんでます」。
山崎さんは海洋学者に憧れていたが、入学後は釣り具メーカーで釣り道具を作る夢も芽生えた。「今までと違う世界を知ることができた」と笑顔になった。
始まりは隠岐の高校
地域みらい留学は、都道府県の枠にとらわれず地方の公立高校に入学できる制度。生徒は豊かな自然や特色のある地域で高校生活を送れ、受け入れ側は地域の活性化につながる利点がある。
元々は島根県の隠岐(おき)諸島の自治体で始まった取り組み。廃校の危機にあった海士(あま)町の県立隠岐島前(どうぜん)高校が2008年、地元の3町村や地域と連携し、全国から生徒を募集する「島留学」をスタート。生徒が増え、地域ににぎわいが戻った。島根県が12年度に同様の制度を始めるなど、取り組みは全国に広がった。
一般財団法人「地域・教育魅力化プラットフォーム」(松江市)が運営する地域みらい留学は、18年度の13道県34校から35道県145校に増加。新入生は19年度の211人から816人まで増えた。
東京や大阪などでの説明会では、生徒や保護者から「選択肢が増えた」「都市部の学校にはない、寄り添う取り組みがある」などの声があるという。都会で実現しにくい教育環境があり、自立心の育成に期待する保護者が増えているようだ。
甲子園夢見て沖縄から
全国有数の豪雪地帯、福島県只見町。県立只見高校2年の富本結(ゆい)さんは、沖縄県南風原(はえばる)町からやって来た。1600キロ以上離れた同校に進学したのは理由がある。
「野球部が春の選抜に出たのを見て、ずっとこの学校に入りたかった。野球部のマネジャーになりたかったんです。選手数は少なくても、笑顔で生き生きプレーする姿が印象的だった」
同校野球部は、22年春の選…