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5月7日の阪神戦に勝利しハイタッチする巨人の坂本勇人(中央)=日刊スポーツ
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 一振りで、窮地のチームを救った。その一打で、自らも波に乗るかと思われた。

 読売ジャイアンツ(巨人)が迎えた今シーズン最大の苦境で、背番号6は戻ってきた。

 坂本勇人。

 不振による2軍調整を経て、1軍復帰戦となった5月7日の阪神タイガース戦(東京ドーム)。

 2―2の四回2死一塁。今季初の長打となる勝ち越し適時二塁打を打った。

 その前日に4番岡本和真が負傷し、長期離脱が決まった。代わりに昇格したのが坂本で、すぐに結果を出してみせた。

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 今季は開幕スタメンだったが、打率1割2分9厘と極度の不振に陥った。4月15日に出場選手登録を抹消された。

 殊勲打を放った試合後、36歳は「家で(試合を)見ていて和真がけがをしたときに(1軍への招集が)あるなあと思った」と明かした。

 「いろんな若い選手も出てきてます。僕もまだまだ負けないように頑張ります」とも言った。

 ただ、その後の3試合で10打数1安打。5月12日、再び出場選手登録を抹消された。

 この2年、苦しんでいる。

 力強い打球が減り、打ち損じる場面も多い。プロ18年目の昨夏も、2軍で黙々とバットを振った。

 31歳10カ月でプロ野球史上2番目に早く2千安打を達成し、現役選手で最多の2400本以上の安打を積み重ねてきた。

 打撃について助言できる者は限られる。そうした姿は、ときに孤高に映る。

 ただ、自らが不調にあえぐ時期でも、下を向くことはない。言動でも巨人を支えてきた。

 今季から巨人に入団した左腕の石川達也には、2月のキャンプから熱心に声をかけていた。

 昨秋に横浜DeNAベイスターズを戦力外となり、移籍してきた27歳だ。坂本は自らの対戦経験を踏まえてアドバイスを送った。

 「いい球を投げるんだから、もっと自分を磨いてもっといいピッチャーになれるように頑張って」

 3月、大リーグ・カブスとのプレシーズンゲーム。石川が3回無失点と好投すると、坂本はLINEでメッセージを送ってさらに激励した。

 「もっと家族のために、自分のために頑張りなさい」

 その言葉を胸に、石川は開幕直後に5年目でプロ初勝利を挙げた。「LINEが来たときはびっくりした。坂本さんに言っていただいた言葉は裏切れない」と感謝する。

 ルーキーにも、さりげなく教えている。

 ドラフト2位で九州産業大から入団した浦田俊輔は、坂本と同じくショートやサードを守る。

 14歳年上のベテランは「どんなグラブを使っているの」と聞き、ときに交換してコミュニケーションを図った。

 過去6度ゴールデングラブ賞を受賞している名手は、ゴロを捕球する際のタイミングもそれとなく教えた。

 浦田は、捕球直前にどのように打球を捕るか決めていた。一方、坂本は、ゴロを捕るずっと前から捕球体勢を決めて動いていると伝えた。浦田は「勉強になりました」と緊張ぎみに話す。

 5月10日の東京ヤクルトスワローズ戦。試合前、今季初先発となった20歳の浅野翔吾から「緊張します」と声をかけられた。

 背番号6は、3軍からはい上がってきた若手にこう返した。

 「緊張なんかせず、3軍と同じようにいけ」。

 浅野はこの試合で今季初安打となるソロ本塁打を放り込んだ。

 坂本は昨季、4年ぶりのリーグ優勝を決めた際に言った。

 「今までの優勝で一番うれしい」

 自身の打率は2割3分8厘。長いキャリアで、最も打撃が低迷したシーズンだったにもかかわらずだ。

 それは、現役時代も苦楽をともにした、就任1年目の阿部慎之助監督が導いた初優勝に少しでも貢献できたからだというように聞こえた。優勝争いが佳境の昨年9月には、先制本塁打や決勝適時打で存在感を見せた。

 生え抜き19年目。決して人目のあるところでは群れないが、自分が育った球団へは献身的に尽くしてきた。

 その影響力は計り知れない。

 今年4月、坂本は言った。復調のために「何をしたらいいかわかっていない。探しながらやりたい」。

 巨人は若い選手が成長し、6月の交流戦を前にリーグ順位は3位に踏みとどまった。この先は、必ずベテランの力が必要になる。

 坂本は6月10日、再び1軍に昇格した。

 復活への「答え」を見つけられるのか。

 この夏、それをグラウンドで示せるかが、選手人生を左右する。

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