もう20年ほど前になる。当時、ダイエーの捕手で、現在はソフトバンクの球団会長付特別アドバイザーを務める城島健司さん(48)から、記者が叱られたことを思い出す。
「何を言っているんですか。逆ですよ、逆」と言われた。
5日に現役引退を表明した日米通算165勝左腕、和田毅(43)について、私が「技巧派」と表現した時のことだ。城島さんはこれに納得がいかなかった。「間違いなく和田は速球派ですよ」と言い切った。
和田は2002年秋のドラフト自由獲得枠で早大から入団した。東京六大学で通算476奪三振のリーグ記録を打ち立てた「ドクターK」だ。とはいえ、当時は身長179センチ、体重は今よりも約6キロ軽い74キロの優男。「速球派」には見えなかった。
一方で、同じ自由獲得枠で九州共立大から入団した新垣渚さん(44)=現ホークスジュニアアカデミーコーチ=は身長189センチ、体重80キロ。長身から投げ下ろす150キロを超える豪速球が持ち味だった。
「和田=技巧派」
「新垣=速球派」
そんな図式が頭の中にあったが、城島さんの見立ては違った。
「簡単に言えば、決め球ですかね。和田は直球で空振りを取れるけど、渚の決め球はスライダーですから」。目からうろことはこのことだった。
以来、和田から直球へのこだわりを何度も聞いた。引退会見でも、直球への思いがあふれた。
「自分としては(直球が)一番アウトが取れる確率が高い球だった。変化球で空振りがとれる投手ではない。軸は真っすぐ。年齢を重ねても磨こうという気持ちでやってきたから、ここまでできたと思う」
早大時代から、140キロ台の直球をいかに速く見せるかを考えてきた。リリースポイントが打者から見えにくい投球フォームなど、体の動きを工夫した。140キロ台前半の直球に打者が振り遅れたり、差し込まれたりする姿がいまでも目に浮かぶ。
その直球を支えたのが豊富な…