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種もみの袋を手にする堀口真吾さん(右から5人目)と角田守良市長=2025年4月24日午後2時5分、埼玉県加須市、猪瀬明博撮影

 埼玉県加須市外野の利根川スーパー堤防上に、2001年完成した「加須未来館」。市のウェブサイトにはこんな解説が載っている。「美しい農村景観と豊かな自然環境のもとで、地域の活性化を図るグリーン・ツーリズムの推進と、子どもたちが楽しみながら宇宙への夢を育み未来を創造する施設です」。農業と宇宙。合わせにくそうなコンセプトをマッチさせたプロジェクトが4月24日、同館でスタートした。

 高精細画像の投影が可能なプラネタリウムで根強い人気の未来館。最近では展示するロシア製宇宙服がテレビの鑑定番組で高値が付き、注目が集まる。そんな施設で4月24日にあったのが「加須宇宙米プロジェクト」スタートセレモニー。

 簡単に説明すると加須産米の種もみをロケットに載せて宇宙へ運び、半年ほど国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」で保管。地球へ帰還後、田植えをして育てるというもの。

 宇宙ビジネスのベンチャー企業「デジタルブラスト」(東京都千代田区)の社長で地元出身の堀口真吾社長(43)が「古里の子どもたちが宇宙に興味を持つきっかけになる」と考え、昨年末、「伝統の農と未来の宇宙の架け橋ミッション」への協力を市に要請。ちょうど未来館のリニューアル、利活用の促進を検討していた市は、要請から半月ほどで快諾した。

 この日、未来館では地元産コシヒカリの種もみが角田守良市長、未来館のそばにある大越小学校の児童らから堀口さんに託された。児童らは「いつか全国の人たちが宇宙米を味わうために加須を訪れてくれたら、とてもうれしい」「重力も空気もない世界に置かれた種もみが帰還後、どう育つのか考えただけでワクワクします」などとプロジェクトの感想を発表。堀口さんや角田市長らは目を細めて聞いていた。

 計画では今年12月に米国から発射されるロケットで種もみを堀口さんの会社がスペースを利用する権利を持つ「きぼう」に運び保管。半年後の26年6月に地球に帰還させ、27年5月に田植えをするという。

 無重力状態や宇宙空間を飛び交う宇宙線が種もみに及ぼす影響なども調べる予定。こうしたデータは式典にも駆けつけた早稲田大学創造理工学部の野中朋美教授(朝霞市出身)に提供される。40年代には年間1万人が宇宙を旅行するといわれる。同教授はそうした将来を見据えて、どうしたら閉鎖空間で快適に生活できるかを研究している。

 式後の会見で堀口さんは子どもたちへの出前授業の実施のほか、「このプロジェクトを成功させ、その勢いのまま進んでいきたい」と加須への研究拠点の開設まで話が及んだ。すると角田市長は「もちろんウェルカムです」と即応。

 宇宙米のブランド化の可能性について質問が出ると野中教授が引き取り、「どう作られて食卓に届くかというストーリーが大事。その意味で宇宙米は大いに可能性があると思います」と力を込めた。会見は夢が飛び交う場になっていた。

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