増子記念病院理事長の両角國男医師=名古屋市

 夫婦間の生体腎移植が増えている。かつては親から子への親子間の移植が多かったが、拒絶反応に対する免疫抑制剤の進化などにより、血のつながりがない他人からの移植のリスクが低くなった。

 日本では移植を希望する患者に対し、脳死や死後の腎臓移植は少なく、生体移植が圧倒的に多い。

 日本臨床腎移植学会と日本移植学会のまとめでは、2023年に報告された1551件の生体腎移植のうち、提供者(ドナー)が配偶者だったのは685件(44.2%)で、親484件(31.2%)を上回る。00年の報告では、配偶者50件(8.3%)、親413件(68.8%)と、親子間の移植が多かった。

 もともと他人である夫婦の場合、HLA(白血球の型)が一致しないため、移植された臓器が「非自己(異物)」と認識されることで、免疫細胞によって攻撃を受ける拒絶反応が問題となってきた。

 だが近年、免疫のしくみがわかってきたことや、免疫抑制剤の開発が進んだことで、ABO血液型を乗り越えた腎移植も可能となった。移植後も免疫抑制剤をのみつづければ拒絶反応を抑えられるようになっている。

 夫から妻に移植する場合、妻に妊娠経験があると生じる「抗HLA抗体」による拒絶反応を避けるため、移植手術前に抗体を除去する「血漿(けっしょう)交換」などの治療が必要になる例もある。

 ドナーの年齢は70歳が一つの上限とされる。移植を受ける患者(レシピエント)は平均50歳を超えて年々高齢化し、さらに高齢の親からの移植は難しくなっている。

ドナーの経過も、生涯フォローを

 腎臓は二つあり、一つになっても日常生活を送るうえで、大きな問題はないとされているが、ドナーの安全性を確保する重要性は増している。

 両学会の「生体腎移植のドナーガイドライン」では、レシピエントに加え、ドナーについても生涯にわたって経過をフォローすることが明記されている。ガイドラインの委員長で、増子記念病院(名古屋市)理事長の両角國男さんは「引っ越しなどがあっても医療機関で経過観察することが必要」と話す。

 移植はドナーの自己意思であると書面で確認すること、手術のリスクや健康への影響などについて十分に説明すること、精神科医らの第三者が関与するかたちでドナーの心理面を評価することなども盛り込む。両角さんは「健康なドナーに生体腎移植の医学的なメリットはないからこそ、ドナー保護は不可欠だ。手術後のフォロー体制は、移植医療の信頼のためにも重要だ」と強調する。

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