「二十四の瞳」で知られる香川県出身の作家、壺井栄(1899~1967)が、第2次世界大戦末期の1945年6月に中国で出版した「幻の短編集」が北京大学で見つかった。銃後の庶民の暮らしをつづるなかに戦争批判がにじむ内容で、戦後80年の夏に日本で新装出版された。

 見つかった短編集は「絣(かすり)の着物」。終戦のわずか2カ月前の45年6月10日に北京の出版社から刊行された。秦剛・北京外国語大学教授(日本近代文学)が2017年、戦時に中国で発行された日本語雑誌を調査する過程で、北京大学図書館で発見した。

 1942~44年に執筆した短編小説13編が収められており、そのうち3編は日本未公開。出版はされたものの、戦況の悪化で壺井本人の手元にも届かず、「幻の短編集」とされてきた。

 表題となった「絣の着物」は、長男が病死したために戦場に送れなかったと周囲に負い目を感じている母親が主人公。長男の着物を軍人である、おいのために仕立て直すが、彼は戦死。着物を抱いて、むせび泣く。

 「霜月」は防空訓練のドタバ…

共有
Exit mobile version