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新入生を代表して誓いの言葉を述べる豊田紀代子さん=2024年4月8日午後5時54分、名古屋市中区、松永佳伸撮影
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 中学校の教育を十分に受けられなかった人たちが通う「中学夜間学級」の最後の入学式が8日夕、名古屋市中区の愛知県教育会館であった。来年度から、公立の夜間中学が県内で順次開校するため、この夜間学級も2年後に役目を終える。外国にルーツを持つ19人、高齢者2人が、中学卒業資格の取得などに向けて、門をたたいた。

 夜間学級は、公益財団法人愛知県教育・スポーツ振興財団が運営。中学校を卒業できなかった人などを対象とし、1973年に開設された。

 最後の入学生は計21人。そのうち最高齢の村松善之輔さん(87)=名古屋市北区=は、戦後の混乱で中学に通えなかったという。

 「戦時中は疎開し、家族はバラバラになった。親が病気で自分が働くしかなかった。まともに勉強をした記憶がなかったので通ってみようと思った」

 レコードプレーヤーの製造や塗装の仕事などに就き、趣味でハーモニカやギターを演奏する。村松さんは「中学では理科や音楽の授業を受けるのが楽しみ」と目を輝かせる。

 入学式で誓いの言葉を述べた豊田紀代子さん(79)=同市千種区=には吃音があり、中学で同級生からいじめられた苦い思い出がある。

 「時間に余裕ができたので、もう一度やり直したいと思った。言葉の不安はあるが、若い人たちと仲良く、楽しく勉強し、自分を磨きたい」と豊田さん。自宅から約30分かけて自転車で通う。

 生徒は名古屋市立北山中学校の3年生に編入する形をとり、2年通う。毎週月・水・金の午後6時から2時間半、県教育会館で授業を受ける。費用は県が負担し、市が中学教員12人を派遣している。授業料は無料で、教科書も無償で支給される。

 同財団によると、これまでに1千人余りが入学し、673人に卒業証書が授与された。現在は在校生15人と新入生21人を合わせて36人が学ぶ。近年は外国にルーツを持つ生徒が大半を占めているという。

 ブラジル出身のサノ・シルビアさん(54)は、娘のサノ・リエさん(28)と一緒に入学した。25年前から日本と母国を行き来している。通訳などの仕事をしているシルビアさんは「将来は日本国籍を取得して帰化したい。中学で基礎を学び、身につけた日本の文化などを海外から来た人たちに伝えていきたい」と意気込む。

 市立北山中学校の庄司直美校長は「夜間学級を閉じることは寂しいが、さまざまな地域に夜間中学ができ、学びたい人がたくさんいることはうれしい」とし、最後の新入生には「学び続けることは簡単でないが、一人ひとりが目標に向かって明るく、前向きに行動してください」とエールを送った。

 県は2025年4月に豊橋工科、26年4月に豊田西、小牧、一宮に夜間中学を設置する方針。義務教育未修了者や外国にルーツがある人、不登校の生徒も対象だ。名古屋市も26年度までに夜間中学を設置する方針という。(松永佳伸)

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