参院選(20日投開票)では、外国人への規制を強める公約を掲げる政党が相次ぎ、街頭演説やSNSでは「日本のルールやマナーを守らない外国人」への対応強化を求める訴えが出ています。ロシア人の母と6歳で来日し、関西で育ったタレントの小原ブラスさん(33)に、思いを聞きました。
――「日本のルールやマナー」と聞いて、どう思われますか?
法律などのルールを守るのは、国籍に関わらず、当たり前のことです。こうした誰もが守らないといけないルールと、人によって感覚が違うマナーや文化を、混同した言説が多いことに疑問を感じています。
最近、新幹線でハンドクリームを手につけていると「日本では、電車の中でそういうことをしない!」と注意されました。空いている優先座席に座っていて、「日本でそれはだめ」と叱られたこともあります。優先座席が空いている時に座ってよいかは議論の余地があるとしても、こうしたことは、日本人ならみんなが守っているマナーだと言えるでしょうか。自分の見た目が典型的な日本人だったら、こうしたことを言われただろうか、と感じます。
外国人によく投げかけられる「郷には入れば郷に従え」という言葉も、良い言葉なのでしょうが、少し違和感を感じてきました。
母と結婚した日本人の継父は長男で、正月になると、親族が実家に集まります。ロシア人の母がずっと料理をしたり、掃除をしたり。「なんで私だけやらないといけないの」と母は不満に感じていたけれど、「日本の文化だから」と継父に言われて従うしかなかった。これって、日本人でも疑問に思うことだし、嫌だと主張してもよいことだと思うけれど、「日本の文化だから」と言われると、それが本当にそうなのか分からない外国人の中には、従うしかなくなる人が出てくると思います。
――石破茂首相は6月、外国人材の受け入れに関する関係閣僚会議で、「ルールを守らない方々には厳格に対応する」と発言しました。
ルールの明瞭化という点でもっと早くやって欲しかったくらいです。
ただ、みなさん、「ブラスさんみたいに善良な外国人は歓迎です」って言うんですよ。その「善良」が法律を守るということならいいんですけど、日本の役に立っているか、ということも外国人は見られていると感じます。今は若くて働けるからいいけど、いつか役に立たなくなるかもしれないって不安はあります。
「外国人の生活を保護する必要はない」「嫌なら帰国して」という考えの人もいる。それが間違っているとまでは言わないけれど、そんな言説を聞くと、私は道をそれたり、失敗したりすることが許されないんだなあと思います。「自国民が優先されるのは当たり前。排外主義ではない」と言う人もいます。でも、まっとうに生きている外国人に、そんな不安を抱かせることは「排外主義」ではないのでしょうか。
――6歳から日本で育ってこられました。ロシアへの「帰国」を考えることはありますか?
ロシア語はある程度話せますが、読み書きはできないし、帰っても仕事はありません。継父が亡くなる前に「僕はブラスを日本に連れて来て、本当に幸せにできたのかなあ」って言ってたんです。当時は「何でそんなことを言うの」と思っていました。でも、30代になり、今の社会情勢を見ていると、継父が言った意味が少し分かる気がします。道をそれたり、社会の役に立たなくなったりすれば、日本人でもバッシングは受けると思うけれど、外国人だとさらに厳しい目を向けられるので。
―日本人になることは考えましたか?
日本国籍を取ろうと、法務局に問い合わせをしたこともあります。ただ、僕は旧ソ連が崩壊してロシアになる時期に生まれ、実の父親が亡くなったこともあり、日本国籍の取得で求められる書類が手に入らず、物理的に難しい状況です。
それに、日本国籍を取ったら、本当に日本人として扱われるのでしょうか。日本国籍を取得した人が選挙に立候補すると、バッシングされていますよね。
日本国籍を取得しても「反日じゃないですよ」って、ずっとアピールしないといけないでしょ。僕もそういう時期があったんです。仲間と認められ、安心して生きていくために、ロシアを過剰に批判して、日本を持ち上げて。でも、本音がどんどん言えなくなって、苦しかったかな。
――今は自由に発言されていますか?
先日、すごくオンボロのタクシーに乗ったんです。暑い日だったけどエアコンも壊れていて、車内が激アツで。日本で珍しいですよね。面白くてSNSに上げたんです。そしたら「嫌なら涼しい国に帰れば」ってコメントが……。もう、笑えるんです。最近はネットで何を言われても、傷つかないレベルになってきた。それが人間として正常なのか分からないですけど。
――一般社団法人「外国人の子供たちの就学を支える会」の理事長でもあります
子どものためというより、自分のためにやっているつもりでした。彼らが日本になじめず犯罪に走るようになったら、外国人排斥のムードが高まって、僕も生きづらくなるから。同じ外国人だというだけで、そんなことをやる義務もないんだけど。
子どもたちは自分の意思ではなく、親に連れて来られたんですけど、大人になった時には「日本が嫌なら帰れ」って言われるんでしょうか。実際に彼らと接すると、やっぱり幸せになってほしいな、と思います。
――外国人の受け入れはどうあるべきでしょうか
「外国人は人の家に来ているようなもの。だからその家のルールを守らないと」と言う人もいます。でも、日本に住んでいる外国人は、家主に家賃も払って住んでいるわけです。問題が起きたら、家主が言うことに従うだけでなく、話し合って折り合いをつけますよね。一緒に住むっていうことは、受け入れる側も覚悟がいることではないでしょうか。文化にしても、その時代にそこで生きる人の暮らしが少しでも彩られるよう、一緒につくっていくものだと思うんです。
外国人を受け入れるということはどういうことなのか。そこを説明せずにどんどん受け入れてきた政府にも問題はあると思います。
私は日本には外国人を受け入れる覚悟がないと感じるので、現状では受け入れは難しいと考えています。どうしても受け入れるということであれば、外国人を受け入れるとは何かを国が国民に対して十分に説明して理解を得る必要があると思います。
少子高齢化の社会をどう支えていくのか。色々な政党が意見を出したらいいと思う。でも、「ルールを守らない外国人は追い出す」「郷に入ったら郷に従え」という考えだけでは、うまくいかないということは言っておきたいです。
参政権はなくても、税金を払ってこの国に一緒に住む以上、僕は、黙って何でも従うということはしません。政治にも物申します。外国人を受け入れるって、そういうことでしょう。