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「十二宮・加工乙女」 挿絵・風間サチコ  現代社会をイメージした作品を毎月掲載します。

論壇時評 宇野重規・政治学者

 大学とは何か。高等教育は誰のために存在するのか。そんなことを考えさせられる出来事が続いている。

 筆者自身部局長を務め、中立的立場とは言えないが、東京大学の授業料値上げ問題もその一つだ。来年度の入学者から授業料を約11万円値上げする大学の方針は、値上げの正当性や決定プロセスをめぐって学生からの激しい反発を招いた。世帯年収に応じて授業料を全額免除する対象を拡大するなど、学生支援が同時に講じられているものの、経済的に苦しい学生を本当に救えるのか、疑問も残る。運営費交付金の削減・抑制や、光熱費の高騰、人件費の増大で財務状況の悪化に苦しむ大学にとって、厳しい状況が続いている。

 雑誌「中央公論」がこの問題について特集を組んでいるが、NPO関係者や現役学生を含む今井悠介・増村莉子・岩本菜々の座談会が、生々しい「令和の大学生のリアル」を伝える(❶)。世帯収入の低下や学費の高騰により、いくつものアルバイトを掛け持ちせざるをえない「苦学生」が普通になりつつある現在、「忙しさが学生の自由な思考や、社会参加の選択肢を狭めているのではないか」という指摘が重い。

日本の大学は「もっとも歓迎されないケース」

 教育学の松岡亮二は、コロナ禍以前から、戦後日本社会に一貫して存在してきた教育格差を指摘する(❷)。親の学歴や経済状況、出身地域の違いは、大学進学率の上昇にもかかわらず、子どもの学歴に影響を与え続けている。出身家庭によって基礎学力や体験が大きく異なり、大学進学を想像すらできない児童生徒も多い。このことは、授業料免除などの「優秀なら無償」政策では変わらず、より本格的な政策論議が必要である。

 教育社会学の苅谷剛彦は、授業料と財政支援の国際比較から、日本の大学を論じる(❸)。日本は学生の授業料負担が大きく、行政からの財政支援が少ないという意味で「高負担・低支援型」であり、「もっとも歓迎されないケース」である。もともと日本の国立大学の授業料は低かったが、受益者負担論や国立・私立大学間の授業料格差是正の声に押されて政策が転換した。しかしながら、このことは「高等教育機会の平等化に果たす国の役割」の放棄を意味し、政権交代がまれで、保守政権が長期に及んだ結果と苅谷は分析する。

 教育社会学の本田由紀も、日…

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