全国発明表彰(公益社団法人発明協会主催、朝日新聞社など後援)の今年度の朝日新聞社賞に、天体望遠鏡などの高性能化と小型化を実現する新型の「回折格子」の発明が選ばれた。受賞したキヤノンの杉山成さん(44)と田中真人さん(44)は、「カメラで培った技術と、『発想の転換』によって生まれた発明」と語る。

キヤノンが発明した新型の回折格子=キヤノン提供

 赤外線を使って観測する天体望遠鏡には、細かい溝を等間隔で刻んだ板「回折格子」が使われている。宇宙からの光をこの板に通すことで、同じ波長ごとにそろい、さまざまな色の光に分けることができる。

 スクリーンに映して、どの色(波長)が吸収されているかを見ることで、光源の物質にどんな原子や分子が含まれているかも分かる。

 ただ、従来の回折格子の性能では、生命がいる可能性を示すような一酸化炭素や酸素の同位体を検出するには装置の大型化が必要だ。そのため、大きさや重さに制約がある人工衛星に搭載し、宇宙で観測することは難しかった。

 そこでキヤノンは、屈折率が高い材料を用いることで光の波長そのものを短く変える「イマージョン回折格子」の開発に取りかかった。

 波長が3分の1になれば、同じ性能の従来型と比べて体積を27分の1にできる。理屈としては古くから知られていたが、屈折率が高い材料は固くてもろく、実用化は難しいと考えられてきた。

 杉山さんは、カメラのレンズ用の金型をつくる際に使う機械を使い、高速回転するダイヤモンド工具で材料のゲルマニウムを削って加工。数マイクロメートル(1マイクロメートルは千分の1ミリ)単位の階段状にすることに成功した。

 「キヤノンがカメラの製造で培ってきた独自の加工技術があったからこそできた発明です」と杉山さんは胸を張る。

 だが、どれだけ工夫しても階…

共有
Exit mobile version