1989年6月に中国で民主化要求運動が武力弾圧された天安門事件から35年。中国では事件はタブーとして、人々は語ることを禁じられ、香港でも長年開催されてきた追悼集会が開けない状況になっています。一方、日本では中国出身の若者たちが追悼のともしびを受け継ごうとする動きも出ています。現代中国の動向と自由を求める人々を見つめてきた東京大学大学院教授の阿古智子さんに、天安門事件と向き合う意味や追悼活動の今後について聞きました。
- 【連載】生きづらさ感じ日本へ 天安門事件追悼に集う中国の若者たちの思いは
――天安門事件から35年を迎え、言論に対する当局の締め付けや警戒は人々にどのような影響を与えていますか。
先日、香港警察は、天安門事件の犠牲者を悼むSNSの書き込みが「扇動的」として、元民主派団体幹部らを逮捕しました。(香港国家安全維持法を補完する位置づけで制定された)国家安全維持条例違反の容疑で初の逮捕となりましたが、その中の鄒幸彤さんは私の友人でもあります。
私は、中国や香港で社会運動に携わる人たちと交友があるのですが、当局による言論統制の強化が人々の間に疑心暗鬼を生み、信頼関係を壊していると感じています。例えば、社会運動に携わる人たちの中には、身近な人にもずっと本名を明かさずに偽名で活動を続ける人もいます。それは、自分について周囲にいる誰がいつ当局に通報するかわからないからです。自分の安全のために言動に慎重になり、まるで「二重人格」を演じなければいけないような状況になっています。
日本で学ぶ中国人の大学院生が博士論文を書き、政治とは関係がない内容だったにもかかわらず、中国で論文執筆のためのインタビューに応じた人たちが拘束されたということもありました。複雑な人間関係の中で、人々がお互いを取り締まり、通報し合う社会になってきていると感じています。
――中国で暮らす人々は今、天安門事件についてどう考えているのでしょうか。
知っていたとしても…
中国では、天安門事件は「集…