奈良国立博物館(奈良博、奈良市)で2本立ての展覧会が開かれている。特別陳列「泉屋博古館(せんおくはくこかん)の名宝 住友春翠(しゅんすい)の愛(め)でた祈りの造形」では休館中の京都の美術館のコレクションを公開。「フシギ!日本の神さまのびじゅつ」では日本古来の「神」を表現した絵画、彫刻などを子どもにも分かりやすく紹介している。
泉屋博古館は、銅山経営で財を成した住友家が収集した美術品を、東京と京都で公開している私立美術館だ。
本館である京都館が改修工事のため2025年春まで休館中で、同館のコレクションの中軸である中国青銅器と、公開の機会があまりない仏教美術を奈良博で展示することになった。
住友家の第15代当主・住友春翠(友純(ともいと))による中国青銅器のコレクションの中でも、動物をかたどった酒器の華麗な造形は目を引く。抱きかかえた人間を丸のみしようとするトラの形をした「虎卣(こゆう)」(紀元前11世紀)は、恐ろしいというより、どこかユーモラスだ。
泉屋博古館では中国青銅器の展示がメインのため、春翠が晩年に収集した仏像、仏画は公開される機会が少ない。今回は仏教美術の専門家が多い奈良博がコレクションの調査も実施した。仏の姿を刻んだ銅鏡「線刻仏諸尊鏡像」(12世紀)は国宝、朝鮮半島・高麗時代の仏画「水月観音像」(1323年)は重要文化財に指定されている。
泉屋博古館の廣川守館長は「出展品を中国青銅器と仏教美術に絞ったことで、泉屋博古館の特徴がよく出た展示になっている」と話した。
「フシギ!日本の神さまのびじゅつ」展は、子供も楽しめる分かりやすい展示を目指した「わくわくびじゅつギャラリー」の第3弾。奈良博公式キャラクターの動物たち「ざんまいず」が案内役になり、日本で古くから万物に宿ると考えられた「神」の姿に迫る。
「分かりやすい」といっても、国宝や重要文化財が並ぶ本格的な展示。奈良市・薬師寺に伝わる「八幡三神像」(国宝・9世紀)は、仏像に比べて目にすることが少ない神像の名品だ。
着物の袖で口元を隠した奈良県川上村・玉龍寺の女神(じょしん)像(12~13世紀)、老人の顔にヘビの体がついた大阪府高槻市・本山寺(ほんざんじ)の宇賀神(うがじん)像(17~18世紀)など、不思議な姿の神像も公開された。
「ざんまいず」の生みの親で、イラストも手がける翁(おきな)みほり研究員が展示を担当。「知っているようであまり知らない『神さま』に親しんでもらえれば」と話す。
両展とも9月1日まで。月曜休館(8月12日は開館)。観覧料は共通で一般700円、大学生350円、高校生以下・18歳未満と70歳以上無料。問い合わせは同館ハローダイヤル(050・5542・8600)へ。(今井邦彦)