米国出身の建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(1880~1964)が設計し、奈良県内で唯一現存するとされる奈良市高畑町の住宅の解体が計画されている件で、周辺住民の有志らが保存活用を求める要望書を所有者の大和ハウス工業(大阪市)に送った。更地にして売り出す予定の同社に対し、「文化的な価値を理解して欲しい」と再考を求めている。
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要望書は1日付。「高畑の歴史と風土を語る集い」の大槻旭彦代表や大学名誉教授らが連名で送った。
解体予定の住宅は1930年代に建てられたとみられる木造2階建てで、煙突や円窓など洋風の意匠が特徴。大槻代表によると、施主は日本画家の栗盛吉蔵で、近くで暮らした志賀直哉とも交流のあった「高畑サロン」の一員だったという。栗盛は自宅の設計をヴォーリズに依頼したほか、敷地の一部をキリスト教会に寄贈。後に建て替えられたものの、教会の建物もヴォーリズが手がけたという。
住宅は後に人手に渡り、所有者が関東地方に移ったために空き家の状態が長く続いたが、今年3月になって大和ハウス工業が購入。同社はヴォーリズの建築とは「把握していなかった」という。
大槻代表は「最近は立ち止まって建物を見ている人を見かけるので関心の高さを感じる」とし、「取り壊しの話は寝耳に水だった。傷んではいるが、昭和初期の高畑の文化の薫り高い雰囲気を構成する文化遺産だということを理解して欲しい」と話した。この住宅をめぐってはヴォーリズ建築の研究者からも調査を求める声があがっている。
大和ハウス工業の広報企画部は「要望書はまだ届いていないが、解体する方針に変更はない」としている。