天童荒太さん=2021年

相手の体に触れる時、性的な行為をする時に必要な「性的同意」。裁判や暮らしの場で議論や話題になることが増えています。「性的同意」を取り巻く日本の社会状況や、この言葉が持つイメージについて作家の天童荒太さんに聞きました。

 ――昨年、性犯罪をテーマにした小説「ジェンダー・クライム」(文芸春秋)を出版しました。

 女子大学生が有名大学の学生グループからカラオケ店で性被害にあう。この出来事を発端に起きた殺人事件を描きました。被害にあった女子大学生は、「被害者に落ち度があったのでは」というSNSへの書き込みや警察官の捜査などから二次被害に苦しみます。

 性加害者に甘い社会、それが男女差別的な習慣や伝統によって生じていることをエンターテインメントの形で多くの人に伝えたかったのです。

「たかが」性犯罪 性加害者に甘い社会

 ――主人公の警察官をはじめ、登場する男性たちが被害女性の苦しみやそれを負わせた社会の問題に気付いていく様子が印象的でした。

 自分にとっては当たり前であることが実は人を傷つけているとか、女性差別につながっているということに一つ一つ気付くこと、そして、自分の考えは間違っていたのかと悩むことから一歩が始まる。今まで通りの自分でいるのは楽ですが、勇気を持って少しずつ変わっていく男たちの過程を、読者にも一緒に歩んでもらいたいと思っています。

  • 性加害報道見て自分を責める苦しさ 心のメカニズムと「安全な場所」

 ――作中では、無意識のうちに女性という性を軽く見たり、性犯罪を「たかが」と思ったりする人がいる社会状況について、主人公が男性権力者を相手に「我々の、罪ですよ」と話すシーンもありました。

 性犯罪は魂の殺人と言われます。被害者の人生がそこで途絶えてしまうような重みをもつ行為です。心と体の中に他人が入ってくる行為がどれほど重いことなのかということについて、社会の認識が至っていない。それゆえに、被害者を責めたり、加害者の罪を軽く見るような言動が目立ったりするのだと思います。そういう社会を僕らもどこかで容認してきた。これは私たちの罪でもある。自分たちにも槍(やり)を向けることができたのが、この作品を書いてよかったと思う点でもあります。

言葉が容認する「男性が主、女性が従」

 ――性加害について、以前から関心があったのですか。

 26年前、親から性的虐待を…

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