大阪府岸和田市の永野耕平市長が女性と性的関係を続け、解決金500万円を払って謝罪する内容で和解したことをめぐり、女性側が26日、コメントを発表した。市長は女性への配慮を理由に説明を避けていたが、「口外禁止」の条件を求めていたのは市長自身で、解決金を抑えるために取り下げたと説明。「都合よく脚色したストーリーを発信している」と批判した。
- 岸和田市長の不信任決議のきっかけとは 和解調書に異例の「所見」
市長と政治活動で関わりのあった女性は「性的強要があった」として2022年、約2280万円の損害賠償を求め、大阪地裁に提訴した。今年11月に和解したことが報じられると、市長は当初、「和解内容は第三者に秘匿することが決まっていて話せない」「女性側が秘匿してほしいと言っている」などと説明を拒んだ。
これについて女性の代理人弁護士は、女性側が求めたのはプライバシー保護のため訴訟記録を見られないようにする「閲覧制限」で、和解した場合に第三者に内容を明かさない「口外禁止条項」を付けるよう求めたのは市長だと指摘した。
女性側は市長の行為を公表する意向を伝え、口外禁止を盛り込まない形での和解を求めたという。請求額に近い額でなければ和解に応じられないとも訴えたところ、市長側からは「口外禁止を外す代わりに解決金を抑えてほしい」という打診があったと説明。「市長が優越的立場にあった」と認める裁判官の所見が盛り込まれたこともあり、和解に応じたとしている。
また報道直前、取材を受けた市長の代理人弁護士から、抗議のファクスが届いたと明かした。「不適切な記事が公表されれば和解金の支払いを考えざるを得ない」「こちらも説明責任を果たすため、一定程度の情報を出さざるを得ない」などと書かれていたという。
積極的に記者に情報提供をしていたわけではなく、もともと公表の意向は伝えていて、「抗議を受けること自体が心外」としている。
市長「僕が悪かったとはなっていない」
市長は所属する大阪維新の会の勧告を受け、今月8日に離党した。市議会では20日に不信任決議が成立し、市長は24日に「決議に大義はない」として議会を解散した。
解散した日、市長は妻を同席させて会見し、不倫関係にあったことについて「申し訳なかった」と謝罪した。一方で「刑事事件、民事事件で僕が悪かったということにはなっていない」などと従来の主張を繰り返した。
女性側の26日の指摘について、市長は「内容を把握していないため、コメントは差し控える」とした。
《女性の代理人が発表したコメント》
女性の代理人弁護士が26日に報道各社へ発表したコメントは、以下の通り。
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11月14日に大阪地裁で和解が成立した民事訴訟について、28日に記者会見を開きました。この間の永野耕平市長の言動や報道に接し、改めてご報告します。原告の現状などを報道していただけるのであれば幸いです。
和解の経緯
(1)閲覧制限について
記者会見でも申し上げましたが、この裁判は一般人である原告のプライバシーを保護するため、原告の個人情報や特定につながる情報、具体的な被害状況が公開されないようこちらから地裁に「訴訟記録の閲覧の制限」を求め、認められています。
閲覧制限とは、記者の方々を始め、どなたでも閲覧できる訴訟記録の公開を当事者以外の第三者に全部あるいは一部を制限する制度です。
提訴した時から申し立てをしていて、市長もこちらが閲覧制限を申し立てたことについてはご存じです。
(2)尋問について
本件では、今年5月22日に尋問が行われています。原告については遮蔽(しゃへい)措置を行い、傍聴席や市長からは見えない状態で、氏名など個人の特定につながる情報も伏せて尋問が行われました。
その尋問に際し、裁判所の開廷表で原告・被告(市長)ともに氏名が伏せられていたため司法記者の方の目に留まったようで、傍聴なさった記者の方から後日、取材の申し込みを受けました。
しかし尋問後、裁判官から和解の勧試(勧告)がなされており、市長から口外禁止条項を盛り込むことが要望されていたため、取材はお断りしていました。
(3)原告がもともと事件の公表を望んでいたことと、和解の経過(市長から口外禁止条項を外す提案がなされたこと)について
原告は提訴当時から、市長による加害行為をなかったことにしたくない、公表して他の被害者が出ることを防ぎたい、同じような状況にある方々に「逃げて」と伝えたい、という心情を有しており、判決を得たうえで記者会見を行うことを考えていました。
そのため和解協議の中では「口外禁止を盛り込まない形で和解をしたい、盛り込むのであれば訴額(請求額)に近い和解金でなければ受け入れることができない」と述べていたところ、市長から口外禁止条項を外すので和解金を500万円に抑えてほしいという打診を受けました。
こちらは和解協議の中で、原告に公表したいという心情があることや、取材の依頼があることも伝えていました。そのうえで11月14日に、裁判所からの前文(所見)や謝罪の条項に加え、500万円という解決金で、和解を受け入れることとしました。
28日の記者会見でもお話ししましたが、口外禁止を外してもよいという市長からの申し出は意外に思いましたので、裁判官にも本当に外してよいのか再度、確認をしています。
仮に口外禁止条項を外すということがなければ、原告は和解に応じなかったでしょうし、解決金の金額を下げる意味もありませんでした。
口外禁止条項が無くなりましたので、こちらは14日に和解が成立した後、尋問時から申し込みをいただいていた取材を受けることとしました。
和解後の状況
(1)市長から公表に関する協議の申し入れはなかったこと
その後、市長に対しても取材の申し込みがあったようで、11月22日の夕方に市長の代理人から、こちらが取材に応じたことに抗議するようなFAXが届きました。
市長の記者への回答書も同時に送信されており、そこには「記事が公表されるのであれば、11月29日が期限であった和解金の支払いを考えざるを得ない」「記事が公表されるのであれば、こちらも説明責任を果たすため、一定程度の情報を出さざるを得ない」といったことが記載されていました。
同FAXの文面には、公表して差し支えのない情報の範囲の確認や、その協議についての申し入れはありませんでした。
私どもとしましては、上記和解の経緯でしたので抗議を受けること自体が心外でしたし、取材活動に口を出す立場にもありませんので、特に回答はしていません。
そして報道が出た直後、事務所の始業前から別の社の記者の方が訪ねてこられたり、電話での問い合わせが相次いだりして、報道機関のみなさまにお話しするため28日に記者会見を行いました。
22日にFAXをいただいた後、市長や代理人からは下記の12月5日まで一切、連絡はいただいていません。公表の範囲について、相談を受けたということもありません。
12月5日午後に、市長の代理人から、マスキングが施された和解調書と一緒にFAXが届きました。マスキング部分を除き、翌6日に和解調書を公表する予定であるため確認せよ、回答が無くてもそのまま公表する、という趣旨のことが記載されていました。
このFAX以外には「公表してよい内容についての問い合わせ」といったものを含め、市長や代理人からは一切、連絡はいただいていません。
その間にも、市長は取材に対し「原告代理人と協議中」であるかのように話していたため、これも心外でした。
(2)市長による論点のすり替えについて
現在、市長が本件を「単なる不貞行為」にすり替えようとしていることについて、原告は非常に憤っています。また市長は、原告らの個人情報に配慮すると述べつつも、一般人である原告や利害関係人等について、虚偽の内容を含む広範なプライバシーの侵害を行っています。
仕事もできなくなり、自殺を考えるほど追い詰められていた原告が提訴に至る前、市長の妻宛てに被害の詳細や思いを綴(つづ)った手紙を書いたことがありました。ですが、市長と妻は、それを無視しました。
和解調書の前文で、市長が優越的な地位にあったことが指摘されているとおり、本件は「不貞」などでは決してありません。市長が原告に支払った和解金を利害関係人が手に入れた、ということもありません。
原告は、自分と同じような苦しい思いをする他の被害者を出したくない、その一心でこの事件を公表しました。市長を辞職させることが目的ではありません。市長の進退に関することは、岸和田市民の方々が判断なさることと思っていました。
そのため記者会見後、多数のご連絡をいただきましたが、個別の取材などは受けていませんでした。
しかし12月24日の市長と妻の記者会見での「ただの不貞行為」という市長の主張に接し、また「和解は口外してはいけないはず、原告側が和解内容を話すことが問題」というようなSNSの投稿などを多く見るようになり、事実関係を正確にご理解いただくために、本書を提出させていただいた次第です。
原告は11月28日に提出した「原告からのメッセージ」で、自身の経験から「今後、何かされるのではないかという恐怖に、ずっとつきまとわれています」と述べました。
原告が危惧していたことが現実になってしまいました。市長はその立場を利用して、ネットメディアをも巻き込み、一方的な主張や都合よく脚色したストーリーを発信しています。市長は、建前では「被害者を守る」「秘匿」と述べていますが、実際には市長によって、正反対の状況が作り出されていると感じています。
原告の個人情報の取り扱いについてのお願い
原告は、原告の個人情報の特定や、興味本位での詮索(せんさく)が続くこと、利害関係人を始めとする関係者らが本件に巻き込まれることについて、二次被害だと受けとめています。
原告のプライバシーを保護するため、裁判所で閲覧制限が決定されていた趣旨をご理解いただき、報道に携わるみなさまにも、原告の特定につながるような事項についての報道はお控えいただきたく存じます。
原告の生活の平穏を守っていただけますよう、なにとぞお願い申し上げます。