母体や赤ちゃんへの影響から、妊婦への使用を避ける「禁忌」とされる薬が多くある。その一つ、吐き気止め薬「ドンペリドン」の妊娠中の禁忌が5月に解除された。妊婦の声を聞きながら、最新のエビデンス(科学的根拠)をもとに、安全に薬を使うための取り組みが行われている。
2005年に開設された国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」は、妊娠と薬にまつわる約2万4千人の妊婦などの相談に応じてきた。05~21年の相談のうち、妊婦で禁忌となっている医薬品で最も多かったのはドンペリドンで、483件だった。
ドンペリドンは、吐き気や胃もたれなど慢性胃炎に伴う消化器症状のある患者に広く処方される。だが、動物実験では大量投与時に胎児に影響があったため、妊婦への使用は禁忌とされていた。
同センターの後藤美賀子さんは「妊娠初期のつわり症状は、ドンペリドンの対象となる消化器症状に似ている。『胃の調子が悪い』などと受診し、ドンペリドンを処方された女性が、その後に妊娠に気づくことが長らくあった」と話す。
胎児への影響を心配したり、人工妊娠中絶を考えたりする妊婦もいるという。センターへの相談にはこんな例もあった。
ドンペリドンの服用後に妊娠がわかり、三つの産婦人科に相談したところ、人工妊娠中絶を促された。だが、出産をあきらめきれずに受診した別の産婦人科でセンターのことを知った。その後、センターでの相談やカウンセリングを経て不安が解消し、中絶を回避した。
禁忌は、薬の取扱説明書にあたる「添付文書」に記載がある。だが、添付文書には必ずしも最新の情報が反映されているわけではない。厚生労働省は16年度から、最新の知見をふまえて、妊婦や授乳中の女性に関する添付文書を改訂する事業を開始。センターは事業の一環として、相談で集まったデータや国内外の文献をもとに、妊娠中の薬の使用が胎児へ与える影響を調査している。センターがまとめた報告書をもとに、厚労省の審議会が禁忌の解除について議論する。
ドンペリドンは、複数の研究…