3月15日午前10時、鳥取県境港市中町の真新しい店の前に、市民らの長い行列ができた。お目当ては「ブドーパン」。市民のソウルフードとも呼ばれていたご当地パンだ。だが2年前、製造元の廃業で、惜しまれながら姿を消していた。
ブドーパンは、レーズン入りのふかふかしたパンで、ラム酒入りバタークリームを挟んでいる。製造していたのは1897(明治30)年創業の伯雲軒(境港市)だ。4代目社長だった山本敏則さん(67)によると、ブドーパンは、約70年前に先代社長が考案したという。市民だけではなく全国にファンがいて、地方発送するほど愛された。
だが、製造機械の老朽化や後継者不在などから、2022年3月に会社は廃業。ブドーパンも世の中から姿を消した。
惜しんだのが、菓子製造会社・八雲ことぶきフーズ(松江市)で現在、工場長を務める黒木克翁(かつおう)さん(37)だ。宮崎県出身だが、16年に境港市に赴任して以来、ブドーパンの大ファンに。製造中止を知ったときは20個ほど買い込んで冷凍保存するほどだった。伯雲軒の山本さんが「ブドーパンだけは残したい」と話していると耳にし、たまらなくなって面会を申し込んだ。
初対面は22年夏ごろ。黒木…