「子どもへの性暴力」第11部は、性教育について考えます。

 私たちは、性暴力が被害者のトラウマとなり、その後の人生に大きな影響を与えることを、この5年半さまざまな角度から考えてきました。

 幼いときに性暴力を受けた被害者はほぼ「自分に何が起こっているのかわからなかった」と語っています。その後に自分の身に起こったことの意味がわかると、自分を「被害者」ではなく、悪いことをした「共犯者」だとさえとらえる人も少なくありません。

 被害を被害と認識できなければ、被害を訴えることができず、繰り返し被害を受けてしまうことにもなりかねません。そして、ケアを受けることができず、人生の困難を抱えていくことにつながります。被害をなくすためには教育が必要であることを、私たちは連載当初から感じてきました。

 日本ではこれまで「性教育をすると、子どもたちによる性交が増える」といった声も根強くあり、性教育を性に関する知識やスキルだけを教えるものとして嫌悪する意見も一部にあります。また、性に関することになると、どうしても忌避感をもってしまう大人も少なくありません。

 しかし、現在、インターネットなどには正しくない、不適切な情報があふれ、子どもたちは日々その情報に触れています。子どもたちへの早い段階からの教育は不可避です。

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 2023年度からは、被害者にも加害者にもならないためにという視点で、「生命(いのち)の安全教育」が全国の学校で実施されるようになりました。

 ただ、世界に目を転ずると、人間関係や多様性、価値観、幸福、ジェンダー平等など幅広いテーマで人権を育む「包括的性教育」が推奨されています。性教育は、子どもたちが人生を幸せに送るための人権教育につながります。

 私たち大人も十分な教育は受けてこなかったと言えるでしょう。子どもたちと一緒に学んでいくことが必要です。

 今回の連載では、教育現場に残る忌避感の背景、各地の自治体の取り組み、就学前の子どもたちへの教育、家庭での教育、学校現場で奮闘する養護教諭たち、私立高校での取り組み、ユースクリニック、障害のある子どもたちへの教育、加害をしてしまった子どもたち、LGBTQ教育、子どもたちはどのように受け止めているのか、などさまざまなテーマでお伝えしていきます。識者のインタビューなども含めて関連配信は全16回の予定です。

 子どもたちが幸せになるために、加害も被害もなくすために、性教育について、みなさんと考えたいと思います。

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 2019年12月から新聞とデジタルで展開している「子どもへの性暴力」シリーズの第1部から10部までを収め、その後の法律や制度の変化なども加筆した書籍『ルポ 子どもへの性暴力』(朝日新聞出版)が発売中です。104人の当事者の声が収められています。480ページ、税込み2200円。お買い求めは書店や朝日新聞出版のサイトで。

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