学校法人鎮西学園(熊本市中央区)が運営する私立鎮西高校で、職員が精神疾患となり休職して労災認定を受けた問題をめぐり、労働基準監督署の調査に協力した男性教諭に、人事権者の法人幹部が「先生も職を辞す覚悟を」などと怒声を発していたことが分かった。法人幹部は取材に「教諭への思い入れもあり、感情的になった。深い反省をしている」と話した。
教諭や法人によると、問題が起きたのは今年7月10日。職員の労災申し立てを受けた熊本労基署が、職員と同じく硬式野球部を担当していた教諭に、職員の勤務状況を電話で確認した後だった。
教諭は校内の応接室で電話に対応した。その様子を、労災申請した職員とは別の職員が見に来たことに、近くにいた法人幹部が激怒したという。
強い口調で教諭に「僕にはつながりが見えている」「(労災申請した職員と)やりとりしているのはよく分かっていますよ」などとまくし立てた。
さらに「先生方が僕を裏切るなら僕もそれに対抗します。徹底して」「先生も職を辞す覚悟でやってください」「理事長に相談して、やるべきことをやっていきます」などと続けた。
男性教諭は法人幹部の言葉に「職を失うことになるのでは」と強い恐怖を感じて体調を崩し、翌日から約1週間、出勤できなくなったという。
法人幹部は11日、朝日新聞の取材に「教諭は私が採用を担当した。(幹部自身が教諭だったときと)同じ学科で入試問題の相談を受けるなどやり取りもしていたので、(教諭に)思い入れがあった」と話した。
その教諭が、労災認定を申請した職員や、労基署への電話対応を見に来た職員らと連絡を取り合っているのではとの疑念が以前からあり、この日の発言につながったと説明。「感情的になった。言葉はきつかったと思う。深い反省をしています」と話した。
学校法人は法人幹部の発言について「当該の教諭からハラスメント被害の申告がなく、対応のしようがない」と述べた。
男性教諭は、怒声を浴びた際の法人幹部の表情などを思い出すことに苦痛を感じ、法人にパワハラ被害を申告できなかったとしている。
11日には、学校法人の教職員4人が記者会見を開き、男性教諭の案件を含めたパワハラ被害などについて訴えた。
男性教諭は、法人内で適切な対応は期待できないと感じて、会見での公表すを決心したという。「今後、同じような思いをする人が出て欲しくないと、勇気を振り絞りました」と話した。(吉田啓)