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日本学術会議の新法をめぐり、大学教員や市民の声を集約し、国会議員に送った毛利正道さん=長野県岡谷市

 「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し……学術の進歩に寄与することを使命……」

 そう設置の理念をうたう日本学術会議法の前文が、6月の国会で成立した新法から消えた。

 特殊法人化され、新たに業務監査をする首相任命の「監事」が置かれることなどに対し「国の管理・介入が強まるのでは」と危惧する声が上がった。学術会議の歴代会長6人は「学問の自由や民主主義がむしばまれている」と廃案を求めた。

 長野県岡谷市の弁護士、毛利正道さん(75)も危機感を持った一人だ。学術会議が重視し、戦後貫いてきた会議を象徴する「独立」の文字が条文から消え、「憲法の大切なものが踏みにじられると直感した」と話す。

 科学者らが戦争のための研究などに加担した反省から、1949年に設立された日本学術会議。翌50年には「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない決意の表明(声明)」を出した。政府から独立していたからこそ、「学問の自由を支える制度的基盤であり続けた」と毛利さんは考える。

 4月末に知人らに声をかけ、5月3日の憲法記念日に15人で「学術会議の政府からの独立貫徹を希求する信州市民の会」を立ち上げた。現役の大学教員ら17人を含む長野ゆかりの大学人計60人の連名で5月末、法案を審議する内閣委員会の全国会議員に新法反対の声明をファクス送信。各人の意見も添えた。

 6月初めには茅野市で緊急集会を催し、諏訪地域に住む85人の市民による反対アピールも同様に送付。同8日にも松本駅前で集会を開き、発言者の声など約10人分を送った。

 2020年の菅義偉首相(当時)による会員候補6人の任命拒否問題で学術会議は注目された。しかし、今回の改組も含め、国民の関心は低いままだと感じていた毛利さんは「大学人だけの問題とせず、市民と協働することが大事」と言う。

 社会的つながりが弱い人への支援、性的マイノリティーの権利保障……。学術会議が出してきた提言や勧告に、毛利さんは「英知を集めるとはこういうことか、と心打たれた」と話す。

 新法は6月11日の参院で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決成立し、学術会議は参院選の主要な争点とはなっていない。

 それでも毛利さんは「成立で終わりではない。学術会議も軍事や社会的弱者への対応も、根本にある憲法的価値をどう実現しようとしているのかが問われている」と指摘する。

 新法成立後、信州市民の会員は60人超を数えた。特殊法人となる学術会議で独立性は保たれていくのか。今後も注視し、行動していくつもりだ。

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