梶田隆章・日本学術会議前会長=2025年1月27日午後2時31分、千葉県柏市、相場郁朗撮影

 菅義偉首相(当時)による会員6人の任命拒否に端を発し、政府・自民党が論点をずらす形で持ち出した日本学術会議の組織改革が大詰めを迎えている。政府は通常国会に、学術会議を法人化する法案を提出する構えだが、こんな決着で本当に良いのか? ノーベル物理学賞受賞者にして学術会議前会長の梶田隆章さんに聞いた。

「結論ありき」の最終報告

 ――内閣府の有識者懇談会が最終報告書を出しました。学術会議を法人化し、首相による会員任命は廃止、国の財政支援は続けると。どう読みましたか。

 「いろいろともっともらしいことが書かれていますが、学術会議が一番願っている、自主性・独立性については聞き入れられていないようです。大臣任命の『監事』『評価委員会』を新設し、法人化後の新しい会員はこれまでとは違う特別なやり方で選出すると。学術会議をがんじがらめにして国のコントロール下に置きたい。そのような意図を感じます」

 「そもそもなぜ法人化しなければならないのか。『国の機関のままの改革では限界がある』とのことですが、論理として非常に弱く、結論ありきという気がします。私自身は法人化に絶対反対という立場は取りませんが、特に変えるべき強い理由もない組織をあえて大きく変えるというのであれば、学術会議をより良くするという理念に基づき行われなければなりません。ところが、学術会議側が示した懸念について真摯(しんし)に耳を傾けた形跡はない。議論を尽くしたとも言えない」

 「このような『理念なき法人化』が本当に行われたなら、日本の学術の『終わりの始まり』になる。心配です」

 ――「終わり」とは?

 「ひとえに学術に基づき、社会や国に意見を言うのが、ナショナルアカデミーたる日本学術会議の使命です。しかし人事や運営面で国のコントロールが強まれば、国の方針に逆らうようなことは言いにくくなるでしょう。その影響は、いずれ学術界全体に及びます」

 「地球温暖化など、世界の英知を結集して対応すべき問題が眼前に迫っている。フェイクニュースが氾濫(はんらん)するこの時代に、ナショナルアカデミーの重要性はより増しているはずなのに、力をそぐようなことをして、本当にいいんですか?と」

 ――「いいんだよ。国費で運営されているのに、国の方針に反する提言をするなど学者の思い上がりだ。けしからん」くらいが世の大勢ではないかと。

 「たとえば裁判官は国から給料をもらっていますが、国がおかしいという判決も出す。そういうことを通して、よりよい国になっていく。国に対してみんながイエスと答えるだけになってしまったら非常に貧しい国になってしまうと思います」

 「日本学術会議法の前文に『科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献』とあります。学術会議会員は、わずかな出張旅費と最低限の日当が支給されるだけです。それでも、この前文の理念に沿って、人類社会の福祉に貢献したいという使命感から活動しています。お金や地位のためではない、大事な営みです」

 ――人類社会の福祉より目先の国益。そんな風潮が強まっています。

 「その点では、やはり日本は…

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