昨年元日の能登半島地震に遭い、9月の豪雨で孫娘を失った輪島塗職人の夫妻が6日、滋賀県長浜市内での支援イベントに店を出した。
夫妻は蒔絵(まきえ)師の喜三誠志(きそさとし)さん(64)と悦子さん(65)=石川県野々市市。地震で輪島市の店が焼失。さらに9月21日の豪雨で孫娘の中学3年、喜三翼音(はのん)さん(当時14)を亡くした。
翼音さんは震災前から店を手伝い、フクロウ柄のカップを「看板商品にしよう」と誠志さんに助言していた。カップは翼音さんの写真と並べた。
カップの裏に孫の名前、そのわけは
「翼音を通じたご縁に感謝です」と誠志さん。
カップの裏には「Hanon♡」の文字。「私たち家族のように悲しむ人が出ないように、カップを使って災害を思い出し、命を守る備えをしてほしい。たとえばヘルメットを手元に置くことでもいい」と語る。この願いをしたためたメッセージカードをカップの箱に入れる。
夫妻は仙台や大阪など各地へ漆器販売に回る。悦子さんは「いつも翼音と一緒だと思っている。少しでも覚えていてほしい。犠牲を忘れてほしくない」と話す。
手書きのメッセージ、孫と作ったカップに
今回は、能登の支援を続ける長浜市の認定NPO法人つどいが招いた。川村美津子理事長(65)は昨年10月6日、翼音さんの小学卒業記念のDVDを輪島の被災地で見つけ、大津市の映像会社の協力で映像データを一部復元して悦子さんへ3月16日に手渡していた。翼音さんの遺品が両者を結んだ。
カップを買った長浜市の会社員女性(29)は「かわいい商品に温かい思いが込められていた。輪島の復興の力に少しなれたら」と話した。
川村理事長は「被災のご苦労や復興への思いも直接聞けた。私たちが能登へ度々行けなくても、商品を買うなどで現地のなりわいを支えられたら」と話した。