昨年元日の能登半島地震に遭い、9月の豪雨で孫娘を失った輪島塗職人の夫妻が6日、滋賀県長浜市内での支援イベントに店を出した。

孫の喜三翼音さんと作ったカップを持つ左から喜三誠志さん、悦子さん夫妻と支援団体の川村美津子さん。翼音さんの写真やイラストも並ぶ=2025年7月6日午前11時17分、滋賀県長浜市、小西良昭撮影

 夫妻は蒔絵(まきえ)師の喜三誠志(きそさとし)さん(64)と悦子さん(65)=石川県野々市市。地震で輪島市の店が焼失。さらに9月21日の豪雨で孫娘の中学3年、喜三翼音(はのん)さん(当時14)を亡くした。

 翼音さんは震災前から店を手伝い、フクロウ柄のカップを「看板商品にしよう」と誠志さんに助言していた。カップは翼音さんの写真と並べた。

喜三翼音さん(写真)とデザインしたフクロウのカップ=2025年7月6日午前11時10分、滋賀県長浜市、小西良昭撮影

カップの裏に孫の名前、そのわけは

 「翼音を通じたご縁に感謝です」と誠志さん。

孫とデザインした漆器を説明する喜三さん夫妻(中央と右)=2025年7月6日午後0時27分、滋賀県長浜市、小西良昭撮影

 カップの裏には「Hanon♡」の文字。「私たち家族のように悲しむ人が出ないように、カップを使って災害を思い出し、命を守る備えをしてほしい。たとえばヘルメットを手元に置くことでもいい」と語る。この願いをしたためたメッセージカードをカップの箱に入れる。

孫の喜三翼音さんとデザインしたカップ。防災のメッセージを込めて「Hanon♡」とつけた=2025年7月6日午前11時29分、滋賀県長浜市、小西良昭撮影

 夫妻は仙台や大阪など各地へ漆器販売に回る。悦子さんは「いつも翼音と一緒だと思っている。少しでも覚えていてほしい。犠牲を忘れてほしくない」と話す。

手書きのメッセージ、孫と作ったカップに

孫の翼音さんとデザインしたフクロウのカップに添える喜三誠志さんのメッセージ

 今回は、能登の支援を続ける長浜市の認定NPO法人つどいが招いた。川村美津子理事長(65)は昨年10月6日、翼音さんの小学卒業記念のDVDを輪島の被災地で見つけ、大津市の映像会社の協力で映像データを一部復元して悦子さんへ3月16日に手渡していた。翼音さんの遺品が両者を結んだ。

 カップを買った長浜市の会社員女性(29)は「かわいい商品に温かい思いが込められていた。輪島の復興の力に少しなれたら」と話した。

防災のメッセージを客に説明する喜三誠志さん(左)と妻悦子さん(中央)=2025年7月6日午後0時29分、滋賀県長浜市、小西良昭撮影

 川村理事長は「被災のご苦労や復興への思いも直接聞けた。私たちが能登へ度々行けなくても、商品を買うなどで現地のなりわいを支えられたら」と話した。

共有
Exit mobile version